第一話: City of Light−12
「どうせピラミッドも砕けたんだ、悪いけど、エントランスくらいは大目に見てくれ」
独り言だがそう言い訳をして、伊吹は走って前方へと飛び出す。すぐに明るいエントランスに出ると、崩れ落ちたエスカレーターのあった辺りから吹き抜けの空間に躍り出た。
空中に飛び出してきた伊吹を見上げる魔法科兵は3人。すぐにこちらに魔法を展開する敵兵に向かって、伊吹は右手を銃のような形にして、伸ばした人差し指から光電子魔法によるレーザー光線を放った。次々と光線銃を撃っていけば、外した光線は床や壁、柱などを抉って破壊するが、やつらをこれ以上進ませるよりマシだ。
しかし敵兵に当たっても、やはり孤立空間魔法シールドによって阻まれる。その間も敵兵からの爆破や衝撃波を避けているが、これではキリがない。
体力勝負で言えば伊吹に軍配が上がる。だが、ここで時間をかけたくもない。
そこで伊吹は、床に散らばるガラス片に目を付けた。それを風気魔法によって敵兵に向かって吹き飛ばすと、大量のガラス片が敵兵周辺に舞い上がる。それはシールドによって敵を傷つけることこそできないが、伊吹の可視化魔法によって魔法式を展開されていた。小さなガラス片一つ一つに展開された小さな独立魔法。
ガラスがもともと持つ屈折率を利用しつつ、このガラス片を介して光線を折るのだ。
伊吹が放った光線は、このガラス片に展開された魔法によって屈折して敵の思いもよらぬ方向へと折れ曲がり、全方位から押し寄せる。たとえ避けても、反対側のガラス片に当たって跳ね返り再びやってくる。それが無数に反射しあうことで、敵はあっという間にレーザー銃の乱反射の中に閉じ込められた。
何度もシールド兵器が発動しては敵兵を守るも、あの兵器だって兵士の魔力を要する。兵士たちは悲鳴を上げて抜け出そうとするが、ガラス片が落ちそうになったら風気魔法で支えるため空中に維持され続ける。たまに漏れ出した光線がエントランスのいろいろなところを抉っていく。
そうして、ついに敵の魔力が尽きてシールド兵器が発動しなくなると、光線が敵兵本人を抉った。血しぶきが飛び散り、悲鳴が聞こえる。3人全員が倒れたのは、5分後のことだった。伊吹はすべての魔法を解く。
パラパラとあちこちから小石が落ちてくるのは、それだけ光線がエントランスの床や天井、壁を破壊したからだが、全体としては構造を保っているため、直すのは容易だろう。
そして魔法科兵が沈黙すると、ついに地上からは銃撃音が聞こえ始めた。ルーヴル籠城戦は地上に移る。
伊吹がフォローに入るのは、多くの民間人が逃げ込み、多くの有名な絵画が展示されているドゥノン翼とシュリー翼だ。
「こちら朝倉、地下フロア掃討完了。”Seagull”の状況はどうっすか」
『こちら諏訪、ちょっときつい、とりあえずドゥノン翼地上階に来てくれ』
「了解」
ポケットから地図を出して広げ、地上階への行き方を確認する。とりあえずダイレクトに行くことはできそうだ。伊吹はボロボロになったエントランスから踵を返してドゥノン翼へのエスカレーターを上がると、南側のブロックに入る。階段の上る前から、すでに階上からの銃声と悲鳴が聞こえてきていた。
その階段を駆け上がり、地上階の古代ローマ美術ゾーンに到達すると、窓から降り注ぐ日の光の先に巨大な階段が垣間見え、有名な彫刻や彫像が並んでいた。そしてその間を、第四小隊のメンバーが駆けまわる。
「朝倉です!」
「助かった!中庭から一気に攻勢をかけられてる!」
すぐに諏訪が彫像の後ろから顔を出す。
そこへ駆け寄ると、中庭に面した窓が割れ、銃撃戦となっていた。野沢や諏訪がなんとか爆轟魔法で中庭を爆破することで敵を減らしているが、こちらの内装を傷つけられないため、上林と別所はアサルトライフルで応戦するしかなかった。
時折、敵の衝撃魔法がドゥノン翼の外壁を破壊し、窓が割れて建物が揺れ天井から埃が降ってくる。そのたびに、大階段の方から民間人の悲鳴が聞こえてきていた。地上部隊にも魔法科兵がいるようだ。
「敵のシールド兵器は魔法を魔法ごと弾きます。魔力切れを狙うか、シールドごと押しつぶすしかねぇっすね」
「押しつぶす…?」
「こうです…空対地爆破術式、展開」
そう言って伊吹は、中庭の上空に独立外発爆轟魔法を展開する。その爆轟魔法は、座標の特定によって空中の座標から地上の座標に向けて爆破を放つ独立した爆発を生じさせる。
直上から爆破を起こすことで、爆風で地面に押しつぶしプレスするのだ。
空中の爆発は不自然に真下へと進み、そして兵士たちを襲う。シールドが展開されたが、シールドごと地面に圧迫され、倒れこみ、さらに爆風が吹き付けることで呼吸ができなくなって意識を失った。
「魔力切れ、シールドごとの攻撃、もしくは失神っすね。範囲攻撃ができれば有利っす」
「なるほど…参考になった、ありがとう」
可視化魔法で魔法式を見ていた諏訪はその再現に乗り出す。あまり難しい魔法でもない、伊吹が連合軍のデータに登録した魔法術式ではあるが、汎用的な利用が可能だろう。それこそ、空爆だって可能な術式だ。
「シュリー翼には昼神、芽生、光来がいるから次はそっち頼む」
「了解しました」
昼神と白馬、星海の同年代の3人は東側のシュリー翼にいるという。ダリュの踊り場まで行かず、大階段を脇にそれて進めばシュリー翼に繋がっているが、上まで行くと通り抜けできなくなる。
伊吹は古代ローマ美術ゾーンを抜けて東へと進み、広大な吹き抜けの大階段に差し掛かる。階段の先にはサモトラケのニケがこちらを見下ろしている。その階段には多くの民間人が座っており、頭を抱えて怯えた表情をしていた。ニケの前にいるのは館長とスタッフたちだ。