第一話: City of Light−13


ダリュの踊り場の横を抜けて、ドゥノン翼からシュリー翼に着くと、ギリシア美術ゾーンに入る。すぐに有名なミロのヴィーナスが出迎えてくれたが、ここでも銃声が立て続けに響いていた。

伊吹はセーヌ川寄りの窓すべてが割れているのを見て、柱に隠れる昼神たちが苦戦していることを知る。


「大丈夫か」

「伊吹!」


三人のところに行くと、昼神はパッと顔を綻ばせた。その横で白馬がMP7を撃ち続けている。


「フォローに来た。様子はどうだ?」

「外壁は俺の孤立空間魔法で覆ってるんだけど、まだ芽生君も光来君も不慣れだから攻撃あんま当たらないんだよね。二人とも諦めて銃撃始めたし」

「っるせーな!もともと陸軍だったんだからこっちのが使いやすいんだよ!」


すかさず星海が怒鳴り返す。二人はもともと同じ部隊に所属しており、最初は昼神だけが魔法科に応募し、本土戦後に星海も遅れて応募してきたそうだ。
現在、建物に被害が出ないよう昼神が壁面を防護しているが、その代わり攻撃魔法ができない。白馬は防御寄りの魔法が得意で、星海は両方できるのだが、いかんせん経験値が足りなかった。


「どうせ銃だって相手のシールドに防がれる。魔法にしろ」

「…伊吹、見本」


星海とはあまり話したことがないが、名前で呼ばれる。向上心の塊のような奴であり、訓練では話したこともあるのだが、意外と言葉が少なくともすぐに理解できる。一方の白馬は言葉を尽くさないといけないタイプだった。


「攻撃が当たらねぇなら、直接意識を落とす」

「殴りに行くのか?」

「……、」


頓珍漢なことを言った白馬に思わず白い目を向けてしまう。後ろで昼神がくすくすと笑い、星海も呆れていた。


「な、なんだよ」

「いや…別に。白馬、お前も爆轟魔法使えるな?」

「え、あぁ」

「爆発は急激な燃焼だ。つまり、爆心付近では急速に酸素が消費される」

「…なるほど、気絶ってそういうことか」


ただ、白馬もアホではない。伊吹の意図に気付くと、抱えていたMP7を背中に戻し、取り囲む敵に意識を向けた。


「どうせ爆風や熱はシールドで防げるから怪我すらしねぇ。思い切り、爆破して大丈夫だ」

「了解した」


白馬と伊吹は、敵兵周辺で立て続けに爆破を起こした。大きな爆発にすると爆風がドゥノン翼まで行ってしまうため、連続して小規模な爆発を起こしていく。あっという間に敵のあたりは黒煙に包まれて見えなくなった。

数分ほど爆破を続ければ、黒煙が晴れて敵兵が倒れているのが確認できた。酸欠で意識を飛ばしている。


「すげ…」


感心したように星海が呟く。苦戦していた相手が一瞬で沈黙したからだろう。


「相手も同じ方法が使えるってことだからな。油断すんなよ」

「伊吹ってば大尉みた〜い」

「大尉だわ」


いつも通りな昼神にそうツッコミを入れてから、伊吹は目を閉じて俯瞰透視を行う。諏訪たちは無事に中庭の掃討を終え、リシュリュー翼でも及川たちが敵を倒し終えていた。ほぼ同時に制圧が完了した形である。

周辺にも透視を拡大するが、特にこちらへ向かう敵はいない。すでに戦闘が始まっている1区と9区では敵が散会しているようだ。


「こちら朝倉、ルーヴル宮殿地下および周辺敷地内における敵の掃討を完了、残存兵なし」

『こちら烏養、了解した。予定通り、”Seagull”はパリ東駅へ、”Leaf”は”Wall”と合流して1区での戦闘を開始しろ』

『こちら諏訪、了解しました』

『こちら及川、了解。伊吹、1区の方はフォロー大丈夫だよ、結構進んでるみたい』

「朝倉了解。黒尾さん、取れますか」

『こちら黒尾、”Cat”の方もギャルリーラファイエットでの邦人救出を完了してっから大丈夫だよ。”Fox”は?』


このあとはフォローとして及川たちと、合流先の茂庭率いる第六小隊、そして黒尾率いる第七小隊に参加するつもりだったが、やはり透視で見た通り、あとは市街地に散会した残党狩りのフェーズまで来たようだ。
残るは東駅で戦っている、北率いる第八小隊だった。


『あっかーん!伊吹はよ来てえ!』

『おい勝手に無線取るなや侑。悪いな、こちら北。ストラスブールからのTGVに乗っとった乗客約250人を人質にされとって身動きできひん』

「うーわ」


無線を聞いていた昼神が思わずといった感じで漏らした。白馬も星海も顔をしかめている。

民間人を人質に取るなど国際法違反もいいところだ。敵の言い分は、「鉄道が後から占領している区域に突っ込んできた」といったものだろう。TGVはフランスが誇る高速鉄道で、ストラスブールはドイツとの国境にある大都市だ。


「…朝倉より”Owl”へ、今どこまで来てる?」

『こちら赤葦、レオミュール=セバストポル駅を通過したところ。デートのお誘いってことでいいんだよね』

「北さん、このアホとそっちのアホと俺と西谷でTGVに入ります。それまで待っててください」

『了解や。すまんな、教育が足りひんくて』

「今に始まったことじゃないんで。すぐ行きます」


無線を終えれば、このあとの行動は決まった。伊吹はこれよりパリ東駅へと向かう。
無線を聞いていた昼神たちは呆れたように笑っている。


「ほんと、変なのばっかだよね、この大隊」

「お前も大概変だからな」

「光来もだぞ」

「芽生君もね〜」

「「「……」」」


なぜか三人でけなしあったため、無言になって互いに見つめあっている。まったくもって、この大隊に集まった者たちの癖の強さには毎回驚く。しかしこうしてパリの大半が解放された今、やはりその実力は本物だと言わざるを得ない。

とはいえ、正念場はここからだ。大規模な補給基地となった東駅、そして駐屯地となったモンマルトルを解放してようやく、この『花の都』作戦は完遂されるのだ。


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