第一話: City of Light−14
伊吹はルーヴル美術館を出たあと、風気魔法で飛んで地下鉄7号線の駅へと向かった。飛びながら無線で侑を呼び、赤葦と西谷にも集合地点を指定した。
もともと第一小隊と第三小隊は、4号線を北上し、地下から叩く予定だった。しかし人質によって地上で第八小隊が身動きできなくなると、東駅の手前にあるシャトー=ド駅でこの二隊も止まることになった。ここから赤葦と西谷が地上に出て、走って7号線のポワッソニエール駅へ向かう。
伊吹と侑は地上からこの駅へと向かい、4人で集合する。
ポワッソニエール駅は7号線のパリ東駅の西隣にある駅であり、4号線から北上する部隊を警戒している敵を欺くためにこちらへやってきた。
最初に着いたのは伊吹で、続いて侑、そして数分後に赤葦と西谷も到着した。
「変な感じするな!」
「せやなぁ、このメンバーで実戦てのは考えたことあらへんかったわぁ」
ポワッソニエール駅周辺は閑静な住宅街で、パリらしい高さの揃った茶色がかった色の建物が並び、大通りにはオシャレな店が軒を連ねる。その道の中にやはり愛らしい見た目のメトロの入り口があり、そこにこうして四人が立っているのはアンバランスにもほどがある。黙っていれば三人ともイケメンだと思うのだが、中身を知ればパリの似合わなさが際立つ。
「…とにかく、烏養さんたちもこのメンバーで集まった理由は察してるはずだから、さっさと行くぞ。7号線から東駅に入り、地上ホームに出てTGVに潜入、中にいる敵をすべて掃討した上で西谷が電車全体を覆う」
最初に伊吹が赤葦を呼んだのは、赤葦が迷彩魔法を使えるためだ。無線では、この時点で全員が伊吹と赤葦による迷彩魔法での潜入を理解しただろう。一気に倒したあとに列車を西谷の孤立空間魔法で覆い隠し、人質を無効化すれば、あとは伊吹と侑、赤葦、そして地上に控える第八小隊によって地上部隊と戦闘する。同時に4号線でも北上を再開し、地下と地上で挟撃するようにすべての敵兵を駆逐するのである。
「デートできると思ったんだけどな」
「ちゅうか伊吹、俺んことアホ言うたやろ!」
「また地下鉄か〜!観光してぇ!」
「うるせぇな」
***
7号線の構内を東に進めば、すぐに明るい東駅のホームの明かりが見えた。そのあたりで赤葦が不可視化魔法を展開して迷彩効果を発動、4人とも視認できなくなった。
互いに互いを確認できるよう、ロープを短くして直列につなぐ。伊吹が先頭に立って可視化魔法で赤外線などのセンサー類を警戒して進み、先頭の伊吹と最後尾の赤葦は可視化魔法によって全員を視認し動きを調節する。侑も可視化魔法を使えるが持続時間が長くない。
そうして足音がしないよう歩きながら線路を進めば、やがて東駅に着いた。ホームには案の定敵兵が構えているが、魔法科はいない。
伊吹は独立光電子魔法によってホームの電灯の一つをショートさせると、その音によって兵士たちがざわつき、その隙に瞬時に四人はホームによじ登った。どうしても音が立ってしまう工程を終えれば、あとは同様に進むだけだ。
忍び足でホームを出口へと進み、改札のゲートの下を潜り、停止したエスカレーターを上って地上へ。そうして四人は、パリ東駅地上駅舎内に到着した。
柔らかな明るいクリーム色の壁面と、地下鉄の色ごとに大きく示されたMの字、通路の中央にはパン屋のスタンドがあり、そこからホームを見れば昔ながらの時計と電光掲示板が見える。
電光掲示板はすべてCancelledとなっており、動くのはロシア軍の兵士ばかり。動きがあるため音がそれなりに満ちており、普通に歩いても問題なさそうだった。
目くばせして、伊吹は後ろの三人とともに通路を抜けてホームに面したロビーに入り、電光掲示板の下のエントランスからホームに入った。ずらりと並んだもののうち、7番線に目当てのTGVが見える。入り口は開け放たれており、各車両の扉に兵士が立っている。しかし連結部などすべての扉に兵士がいるわけではないようで、迷彩魔法によってまぎれた四人は最後尾の一等車から車内に潜入できた。
赤いクッションの高級そうな椅子と広く取られた間隔、しかし薄汚れた感じなのはフランスクオリティだ。すべての席に乗客がいて、怯えた表情でじっと座っている。
前方に兵士が一名、銃を持って乗客たちを見張っていた。完全に人質だ。
日本と違って車内は広く、どこに立っていても横を通り抜けることができる。兵士の横をそっと通過しつつ、伊吹は独立外発衝撃魔法を展開した。爆破ではなく、衝撃波を微細に起こして脳震盪を起こす方法を取っている。外発魔法であるため、トリガーによる起動までは発動しない。
一等車を出て二等車のエリアに入る。どうやら、このTGVはドイツからの避難民を乗せるために人をすし詰めにしていたようで、空間を確保するべく各車両の扉は最初から開けられていたようだ。普段は自動ドアのため、通り抜ける度に怪しまれていただろうが、偶然に助けられた。
次の車両には兵士がおらず、そのまま歩くだけだったのだが、通路に人が座っており進めなさそうだった。さすがに座席間の通路は人一人分しかない。