第一話: City of Light−15
伊吹は仕方なく赤葦に目配せをして、迷彩魔法を一時的に解かせた。伊吹だけの姿が見えるようになったところで、伊吹は最後列に座っていた女性の肩を叩いた。
「…ッ!!」
目を見開いて驚く女性に、慌てて伊吹は人差し指を立てて静かにするよう示し、そして胸元の日の丸を指さした。日本国防軍であること、見た目も明らかにアジア人であることから、女性はすぐに理解してくれた。
伊吹は囁き声で事情を説明する。
「I'm in the middle of mission to let you go from the train.(私はあなた方をこの列車から解放する任務に就いています)」
「…私、日本語少しできます。あなたたちは、ひょっとして、魔法使いですか?」
なんと女性は日本語ができるらしい。伊吹は軽く驚いてから、頷く。ここまで敵に気づかれずに来ていることから女性は伊吹たちが魔法科だと察したらしい。聡明な人なのだろう。
「後ろにも三人います。姿を隠す魔法を使っているのですが、あの人たちを静かにどかせてもらえますか」
「分かりました」
女性は頷くと席を立ち、通路の前に行ってドイツ語で話しかける。通路を塞いで座っていた人々はこちらを振り向いて驚いてから、頷いて静かに立ち上がる。その動きと女性の小声のドイツ語を聞いて、周囲の乗客たちもこちらを見ては声を立てないようにスペースを作っていき、通路にいる人々を座席の間に誘導する。
開いた通路を進もうとすると、女性はこちらに戻ってきた。
「この先も、通路に人います。ストラスブールからここまでたくさんの人が乗っているなので、多分面倒です。私がこの先もご案内いたします」
女性は若干拙いながらも状況を教えてくれ、自ら同じように通路を空ける役割を買って出てくれた。助かるが、伊吹はそっと後ろの女性がいた席を見やる。そこには、女性の娘らしい少女が心配そうに見ていた。
「…このままでは、私も娘も助からないですよ。誰かがやらなければならないなので」
「……助かります。あなたも娘さんも、全員、必ず守ります」
そうして、同様に通路を女性に空けてもらいながら車内を進んでいくと、やがて食堂車に到着した。欧州の長距離路線によくあるもので、中央部に売店があり、その周りに座席や立ち食い席がある。コンパートメントがある場合もある。ここで休憩している兵士たちもおり、雑多な中を慎重に歩きながら魔法をかけていく。
一度、侑が肘を兵士にぶつけたが、兵士は仲間のいたずらだと思ったのかゲラゲラと笑っていた。あとで締める、と思いつつ先を急げば、ようやく先頭車両にたどり着いた。
そっと侑に目くばせをすると、可視化魔法によって伊吹を捉えた侑は頷く。同様に西谷に繋がるロープを引っ張って合図すると、西谷も頷いた。
まず侑が、魔力を車両に流して伊吹の外発魔法のトリガーとして衝撃魔法を起動させていく。各車両の兵士たちは一瞬にして脳震盪を起こし、この車両の兵士も声も出さずに倒れた。
速やかに伊吹は可視化魔法ですべての車両を確認すると、「クリア」とつぶやいた。その瞬間、西谷が孤立空間魔法を展開させて車両を完全に覆う。
「完璧」
「当然」
伊吹が思わず言えば西谷はドヤ顔になった。通路にいたため、近くの乗客たちは兵士が倒れたこと、窓の外が真っ黒になったこと、そして姿の見えない聞きなれない言葉が聞こえたことでパニックになっていた。
「赤葦、もういい」
「了解」