第一話: City of Light−17
TGVの車両全体を西谷の孤立空間魔法が覆ってしまえば、あとはなんの懸念もない。
「侑、赤葦。いくぞ。西谷、TGVは頼んだ」
「ここは任せとけ」
相変わらず男前な西谷は親指を立てて頷く。今のところ、ここはパリで一番安全な場所だろう。そう思わせる西谷のすごさには内心で賞賛しつつ、伊吹は侑と赤葦とともに、西谷が一瞬だけ空けた穴からプラットフォームに出た。
途端に、広大な駅全体に銃声が響き渡り怒声があちこちで聞こえてきた。大量の音に鼓膜が驚いているだろう。すでに第八小隊は駅舎への突入を開始している。
いきなり現れた伊吹たちに、近くにいた兵士が慌てて銃口を向けるが、発砲する前に侑が取り囲む兵士たちの上半身を爆破した。血や内臓がホームに飛び散り、ベンチや自動販売機が赤く汚れる。
「…侑、汚い」
「いやぁ、攻撃は不慣れなんよな」
「こっからは乗客下ろせないな」
赤葦は呆れたように言ってから、ホームの間、線路の上から空を見上げる。この駅は欧州のターミナルにしては珍しく、線路上は天井がなく、日本の駅に近いホームだけに天井がある形式だった。ホームにいた敵の魔法科によって、すでにいくつかのプラットフォームが破壊され天井が崩落しているが、この程度ならいいだろう。駅舎はあまり壊せないが、ホームの部分なら歴史があるわけでもない。
「”Fox”はホームの屋根に展開してる。足下に孤立空間魔法敷いてるね」
「さっすが赤さん、器用なことしてんなぁ」
赤木は孤立空間魔法を各隊員の足下に展開することで、天井の下からの銃撃を防いでいる。
銃弾が金属の柱や車両に当たる甲高い音や列車の窓ガラスが割れる鋭い音、衝撃波や爆破で天井が押しつぶされる轟音が響く駅は激戦の中にあるといえるが、国防軍側はまったく焦っていなかった。
「俺は上に上がる、お前らは駅舎の方に行って地下鉄までクリアにしてこい」
「了解」
「ん、任せとき〜」
二人はそう返してホームから駅舎の方へ走っていく。伊吹は線路から飛び上がってホームの屋根の上に飛び乗った。
真ん中に向かって両端から傾斜する屋根に立つと、北とアラン、大耳が離れた屋根から下
に向かって攻撃している。広々とした空間が広がる向こうには、ビルの反対側から煙が上がっている。また、駅の西側を見るとアルザス通りに広がる敵兵が見えた。この通りは駅舎を出て右手に階段を上って続く道で、道とホームの屋根がほとんど同じ高さにある。そのため、この道からは東駅を上から見渡すことができる。
この道から広がる市街地はあまり治安が良くないのだが、今や市民の姿はなく、東駅から北駅を通ってモンマルトルへと続く地区一帯が今や敵の手にあり、戦車が行き交い、次々と兵士がこちらへやってきていた。
『こちら”Crow”、地下鉄4号線東駅に到達』
『赤葦です、地上駅舎の入り口周辺は掃討完了』
地下鉄と駅舎の方は順調なようだ。伊吹はアルザス通りに目を向け、こちらの掃討に取りかかることにした。ちょうど、戦車が北駅に続く道から姿を現したところだった。
戦車はこちらを捉えると、砲身を向ける。
「来いよ、撃ったらそれがお前らの終わりだ」
そう呟いて戦車を睨み付ける。次の瞬間、戦車は砲弾を放った。通り沿いの瀟洒な建物から埃が一斉に舞ってガラスがいくつか割れる。直後、伊吹は砲弾を爆破した。
爆風によって4番線あたりの天井が吹き飛び、そこから敵兵の悲鳴が聞こえてくる。まだその煙が晴れていないうちに、可視化魔法によってアルザス通りを捉えた伊吹は、通りの直上と地面とを座標に特定して接続し、空中から地面に向けて衝撃波を放った。
アルザス通り、およびそこから北駅へと続く道は上からプレスするような衝撃波がたたきつけ、兵士や戦車、路駐の車が押しつぶされる爆音がとどろいた。建物のガラスが割れる音も遅れて聞こえてくる。
『”Fox”より各位、東駅地上施設掃討完了』
『”Crow”より、地下鉄4号線および東駅地下施設の掃討完了』
無線からは、北と澤村が任務を終えたことを伝える。いよいよ、市街地での任務はほとんどが完了した。残るは最後の砦、パリで最も標高の高い場所だ。
『こちら烏養、各員は任務完了後、モンマルトルへ向かえ。これより、パリを解放する』