第二話: Le plus important est invisible−6
パリ1区、サントノーレ通りを歩きながら、二口は前を歩く及川に文句を投げつけることにした。ここからは歩くだけになると分かっていたからだ。
「ちょっと及川さ〜ん、なんで伊吹のことフォローに呼ばなかったんスか〜」
「だって優秀なにろちゃんたちが1区の戦いをほとんど終わらせてたからだよ。俺は伊吹ならもっと早くルーヴルを解放できると思ってたんだけど、思ったよりも魔法科兵との戦闘に時間を取られてたから、他の隊も苦戦するなって。だから、敵の数が多い東駅に先に向かってもらったんだよね」
「チッ…んなこたぁ分かってるんスよね〜、つまんね」
「ちょっとなんなの!?」
及川はわかりやすく説明していたが、そんなことは二口にも分かっている。及川は生意気な二口にぷりぷりと怒っていた。ここに第六小隊の小隊長である茂庭がいれば怒られていただろうが、茂庭と鎌先、笹谷はテュイルリー庭園に1区で殺した敵兵の遺体を集積している。そこには及川たち第五小隊や東駅に向かった第四小隊が倒したルーヴルの遺体も含まれている。
一方、第五小隊の矢巾、京谷、渡と第六小隊の小原、女川はルーヴルの民間人を装甲車に誘導している。
そのため、今こうしてサントノーレ通りを歩いているのは及川とその同期である岩泉、花巻、松川のほか、金田一、国見、そして二口、青根、作並、黄金川、吹上となっている。
先ほどまでこのメンバーでこの通りでの戦闘を行っており、通り沿いに立ち並ぶ古い建物はガラスが割れて亀裂が入ったり塗装が外れたりしているものが多いが、破損はその程度で収めていた。
「あの、二口さんはなんでそんなに伊吹さんのこと好きなんスか!?」
「はぁ?」
二口にそうおもむろに聞いてきたのは黄金川で、ダイレクトな表現に及川が噴き出す。
「いいね、黄金川君…ぷふふ、で?にろちゃんはなんでそんな伊吹が好きなのかな?」
「…うぜー……」
「うぜぇぞクソ川」
「岩ちゃんはにろちゃんの味方なの!?」
「お前の敵に味方する」
思わず呟いた二口に味方した岩泉にキャンキャンと及川が喚く。これで話が流れれば楽だったのだが、黄金川は依然として期待したようにこちらを見てくる。
黄金川や作並、吹上は、先の北九州での戦いで伊吹に助けられたらしく、その姿に憧れて魔法科に志望した。民間人から直接この大隊に入った者のうち、第六小隊には三人がおり、これは第一小隊と並んで大隊内で最多である。
そんな背景からか、伊吹に好意を示す二口にその理由を聞きたいようだ。
「ちなみに俺は、俺たちを守ってくれた伊吹さんが男前過ぎたからっス!」
「何度も聞いたっつの」
「俺は初めて聞いた」
黄金川の言葉を聞いた金田一は感心したようなリアクションをした。他の小隊だったからだろう。
金田一は黄金川の話を聞いて、「分かるわ、それ」と頷く。
「俺も、伊吹さんが函館で助けてくれたとき、『お前らごと乃木町より西は守ってやる』って言われて、かっけーなって思った」
黄金川や金田一は、伊吹の男前さを挙げる。それは二口も同意ではあるが、あくまでそれはきっかけでしかないと思っている。
「……あいつがどういう目に遭ってここにいるか、知ってるだろ」
二口がそう言うと、途端に黄金川は顔を曇らせる。黄金川も作並も吹上も、入隊して初めて伊吹の過去の話を聞いて衝撃を受けていた。それは同じタイミングで陸軍普通科から入ってきた金田一と国見も然りだったようだ。第二次入隊組の5人は全員表情を固くする。
そして、伊吹と同じ目に遭った及川も、岩泉と戯れていたのをやめてこちらに意識を向けた。
「世界を平和にするための仕事をしていたあいつが、無理矢理国防軍に入らされて、挙げ句の果てに怪物呼ばわりされて。それでも伊吹は、その立場で人を守れるように努力してきた。これだけ魔法科が増えても、伊吹ほどの魔力量を持ったヤツは一人もいなくて、今もなお、あいつは少なくとも連合軍では唯一の戦略核兵器クラスの魔法使いだ」
世界中に魔法科兵がいる今もなお、伊吹の魔力量に対して世界で二番目に多い牛島でさえ、伊吹の魔力量の三分の一に満たない。その力によって爆発を起こせば、それは戦略核兵器に匹敵するし、それによってティクリートは壊滅して11万人が死亡した。
「ティクリートの怪物…そう言われてきたあいつが一番、ティクリートでのこと気に病んでるのにな。それでも頑張り続けるの見てたら、やっぱ、支えてやりたくなるだろ」
「二口さんがそんな殊勝なこと言うなんて…」
「おいなんだその言い草は作並」
「すいません、つい事実が口を…」
普通に失礼な作並に二口は舌打ちをするにとどめた。あまりに敵に回したくないタイプなのだ。
しかし青根は、「二口は、優しい」とフォローしてくれた。持つべきはフォロー上手な幼馴染みである。