第二話: Le plus important est invisible−3


「影山は?伊吹とは函館で会ったんだよね」


しかし赤葦は休憩中まで木兎のフォローをしたくなかったため、さっさと話題を進めた。赤葦も影山たちの話を直接聞いたことはなくて、ただ函館で伊吹と出会ってから憧れるようになったのだとしか聞いていなかった。


「あ、はい。函館が占領されたとき、応戦してたら追い詰められて、駐屯地の近くの薬局に逃げ込んだんスけど、そこに来てくれたんです」

「伊吹さん、影山を探したいっていう俺たちのために動いてくれたんです!」


日向が付け加える。日向と月島、山口はもともと影山に会うために函館を訪れたところで本土侵攻に巻き込まれたそうだ。影山と日向はそのときに魔法を使う姿が男前だったといろいろと話し始めたが、そこに月島の冷静な声が割って入った。


「…あのとき、朝倉さんは可視化魔法で駐屯地に生存者はいないって分かってた。でも、僕たちはそれを知らなくて、生存者はいないから逃げろっていう言葉に対して反抗して」

「あんとき伊吹さんにいろいろ言ったの月島だけだろ」

「うるさいな」

「『心ってものがないんですか』ってめっちゃこえー」

「……」


影山と日向は茶化したが、大事な人の生死がかかっていたのだ、月島たちは悪くない。恐らくそれは彼らも分かっているだろう。ただ、月島の言葉は伊吹の心を抉ったはずだ。


「…僕が言ったことが朝倉さんに対してクリティカルだったってのは、分かってる」


月島はそれを認め、その意味を理解している影山と日向もそれ以上は茶化すのをやめた。もともと日向しか茶化していないが。
月島の言葉を聞いた木兎は「うーん」と唸る。


「まぁ、『怪物』呼ばわりされてる伊吹はそういうの気にするしな、確かにツッキーの言葉で傷ついたんだろうけど…でもあいつ、結構図太いぞ?それに、そういうケアは牛島がやるしな」

「そうなんですか」

「そうそう。キルクークでもそうだったし、帰国してからいろんなヤツらに怪物だって言われてるときも、ティクリートの被害が分かったときも、ずっと伊吹のこと支えてたのは牛島と及川だったんだよな。俺、そういうのあんま得意じゃねぇから任せてたけど…」

「牛島さんは言葉がストレートで、嘘をつきませんからね。感情そのままっていうか…そういう肯定が、伊吹には大切なんでしょうね」


牛島のすごいところは、考えていることや心と発せられる言葉の間に乖離がないこと、そしてそれが誰にでも分かるようなストレートさだろう。木兎も似たようなところがあるのだが、牛島はさすがに木兎よりものを考える。
一方で及川は気が遣える人だから、それは「優しさ」というフィルターを通す。それでは、伊吹には足りないのだ。


「……伊吹に優しさは毒だ。優しくされればされるほど、伊吹は傷つく」

「朝倉さんがそれだけ自分を責めてるってことですか」


理解力のある月島に頷く。自分で自分を許せない伊吹は、周りに優しくされると、自分にそんな価値はないと責めてしまうのだ。


「でもそれだけ、伊吹さんは誠実で優しいってことですよね」


それに対して日向は、唐突にそう言った。虚を突かれ、赤葦は一瞬言葉を失う。木兎は「そうそう、それ!俺伊吹のそういうとこ好き!」とすぐに同意を示した。
赤葦の動揺に気づいた猿杙たちは苦笑している。木兎といい日向といい、アホゆえに核心を突くのは、それだけ純粋に世界を見ているからだ。赤葦ではできないため、それを知っている猿杙や鷲尾は仕方ないとばかりに肩をすくめている。


「…なんかむかつく」

「いきなりなんだよ月島!」


恐らく赤葦と同じことを考えていた月島は、日向にぼそりとそう呟いた。日向はすぐ噛みつくが、山口は「まぁまぁ」と苦笑した。
日向たちは騒ぎはじめ、木兎もそれに混じって東駅は騒がしくなる。彼らは確かにときに気が遣えず人を怒らせるし、伊吹にもよくキレられているが、しかし彼らがこうして伊吹を理解していることは確実に伊吹を助けるだろう。

きっと伊吹も、自分がここで一人じゃないと分かっている。

今伊吹はもうモンマルトルにいるだろう。パリ解放のための最後の戦いがこれから始まるが、日本本土での戦いのときよりもパフォーマンスが安定しているのは、伊吹自身がこの大隊で安寧を得ているからだ。牛島や及川、木兎といったイニシャルセブンのメンバーはもちろんだが、きっと、こうして伊吹を手放しで尊敬する後輩たちが入ってきたこともあるはず。
少しずつそうやって、伊吹を取り巻く環境が良くなっていけばいい。赤葦はパリ解放を目前にして、その先の伊吹にとっての第1魔法科大隊がもっと心地よい場所であればいいと、そう思った。


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