第二話: Le plus important est invisible−4


パリ10区、マゼンタ通りを北に歩きながら、ラファイエット通りを過ぎたあたりだった。
侑はずらずらと歩く2小隊の中にいる一際背の高い白馬に声をかけた。


「あ、せや芽生君、今日は魔法兵として初の出兵やったよな、どやった?」

「え、俺か?」

「せやで〜、光来君はさっき聞いてん」


侑は赤葦と分かれて第八小隊に戻ってからすぐにモンマルトルに向かいはじめ、ちょうどルーヴルからモンマルトルに向かっていた第四小隊と合流していた。第四小隊は当初、東駅に向かっていたが、先に完遂したため行き先を途中からモンマルトルに変えたのだという。
そして北と諏訪がルートを決めるために東駅の前で止まっている間、侑は星海には今日の感想を聞いていた。もちろん、同じく今日が魔法兵として初めての戦闘となった銀島や角名、理石ともこの話はしてある。特に理由はないが、黙っているのも嫌だったのだ。

2小隊もいながら会話もなく無言で瀟洒な街並みの中を歩いている状況にムズムズとしてしまった侑は、白馬と絡むことにしたわけである。


「正直、伊吹がいなければ結局銃撃しかできなかったと思う。魔法そのものもだけど、やっぱり伊吹は魔法の使い方を決めるのがうまいんだな」

「ほ〜ん、結構真面目なんやなぁ」

「はぁ?」

「いやどういう絡み方やねん」


さすがにアランがツッコミを入れる。白馬は真面目と言われたことに訝しんでいた。返しとしては意味が通じなかったかもしれない。


「いやぁ、やって芽生君て伊吹に憧れて入隊したんやろ?」

「まぁ、そうだけど」

「魔法使うてる伊吹かわええ〜とか、汗かいとってもめっちゃいい匂いする〜とかあるやろ」

「あらへんわドアホ!」


すぱーんとアランにヘルメットをはたかれる。いてっと小さく言いつつ白馬を見れば、白馬は顔を赤くしていた。


「や、んな、作戦中だぞ!」

「え〜?俺はさっきTGVん中でええ匂いしてんな〜て思うてたで?」

「ずいぶん余裕やなぁ」

「ヒッ…!」


背後からヒヤリとした空気が漂う。それは北の性格や恐ろしさだけではなく、北が冷却魔法で空気を冷やしているからだ。暴走しがちなメンバーが集まる第八小隊において、北はブレーキ役として二次入隊組の中で唯一小隊長になっている。
すると、昼神がニコニコとして口を開いた。


「芽生君は伊吹に助けられたとき、『よく頑張ったな』って言われて恋に落ちたんだよね〜」

「いや落ちてねぇから!何勝手なこと言ってんだ!」


北九州で伊吹に助けられたとき、昼神もそこに居合わせていた。白馬は顔を赤くして否定するがまったく説得力はなかった。


「まぁ、伊吹は男前だもんね、なのに可愛いからギャップがあって好きになっちゃうよね」

「だからちげぇって!!」


昼神に追い詰められる白馬を見かねて、星海が昼神を蹴飛ばした。昼神は大して痛くなさそうにしつつ、こちらに視線を向けた。


「で、侑君はさっきTGVで伊吹と一緒だったんだよね、どうやって解放したの?」

「各車両の兵士を独立外発衝撃魔法でつないで、先頭車両についたところで俺がトリガーやって全員倒してから、夕君が孤立空間魔法で電車覆って終わり」

「まぁそうなるか」


侑は簡単にしか説明していないものの、昼神にはそういう作戦であったことは予想の範囲内だったらしい。
いつも柔和な笑顔を浮かべる昼神だが、正直底知れないものがあって侑は苦手だった。
そこで、昼神への牽制もかねて侑は伊吹の言っていたことを話すことにした。


「…さっきな、電車ん中で、ドイツ人の女の人に通路の乗客どけてもらっとってんけど、その人、夫がドイツ軍で、ハノーファーにおったらしいんや」

「ハノーファー…」


何が起きていたか知るため、その末路に予想がついてアランたちの表情が曇る。それでも表情を変えない昼神に、侑はやはり薄ら寒く感じた。


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