第三話: Montmartre Grim Reaper−1


第三話: Montmartre Grim Reaper(モンマルトルの死神)



パリ18区、地下鉄12号線アベス駅。

タイルでAbbessesと書かれた駅名と黄色いベンチが壁際に置かれたホームが特徴的な駅で、伊吹は兵士たちの遺体の間で烏養を出迎えた。


「お疲れ様です」

「おう、順調だな」

「今のところは。ただ、相手の魔法科はなかなかくせ者っすね」

「そうみたいだな。各隊はすでに集合ポイントに到達している」


烏養はどっかりと、卵のような丸みを帯びた黄色いベンチに腰掛ける。「新感覚の座り心地だな…」と呟く烏養の前に立ったまま、伊吹は目を閉じて可視化魔法による俯瞰透視を行う。


「…連絡通り、サクレ=クール寺院内部には民間人が残ってますね。周辺住宅街をはじめ、敵軍の数は丘全体におよそ5大隊分…魔法科は少なくとも10人います」

「さすがに、市街地への影響は避けられねぇだろうが…寺院内部に敵兵は?」

「入り口に聖職者がいて、自ら肉の壁になってますね。なんで、中には敵兵はいません」

「内部にはパリ市長がいると聞いている。人質に取られることは避けたいが…」

「寺院に突っ込んで、寺院だけ取り囲めばいいんじゃねっすか」


伊吹は目を開いて透視を終える。烏養は少し考えてから立ち上がった。


「”Owl”と”Eagle”に行かせるか…」

「2個小隊であの建物を囲うのは厳しいんじゃねっすかね。”Wing”で挟撃した方がいい気がするんすけど」

「そうだなぁ…よし、”Wing”に突入させて寺院周囲を掃討後、”Earth”が入って寺院内外を防御、”Wing”は周辺に散会するってのはどうだ」

「…そっすね、妥当だと思います」


第一小隊から第四小隊までが属する第一中隊を”Wing”、第五小隊から第八小隊が属する第二中隊を”Earth”といい、第一中隊は直井、第二中隊は溝口が中隊長を務める。
第一中隊の方が機動力があり、第二中隊の方が防衛力があるため、役割分担としては適切だった。


「朝倉は突入したあと、”Earth”とともに寺院周囲に残って応戦しろ」

「了解です。ケーブルカーからでいいっすか」

「あぁ」


伊吹は敬礼をしてから、ホームをSortieの方へと歩いて行く。ブーツの足音以外にホーム内は音がない。長い階段を上り始めると、無線で先ほど話していたことが烏養から各隊へと伝えられる。地上へ上がると、普段なら平和な広場が目に入るはずだが、人気のないそこには第七小隊がいた。


「あっ、伊吹さーん!」


気づいたリエーフが手を振って駆け寄ってくる。相変わらずでかいな、と思いながら待ってやるとリエーフは正面に立って喜色を浮かべる。


「頑張ったんスよ!褒めてください!」

「はいはい、怪我はしてないな?」

「はい!」


それに頷いて、伊吹はリエーフの腕を叩いて「よくやった」と褒めてやったのだが、リエーフは少し不満そうにする。そしてリエーフはおもむろに伊吹を抱き締めてきた。鼻先にリエーフの肩が当たる。


「うわ、なんだいきなり」

「会いたかったんで!あ〜伊吹さんいい匂いする〜」

「はぁ?」


何を言っているんだこいつは、と思っていると、突然リエーフは引き剥がされた。ぐえっという声とともに伊吹から離れさせたのは夜久だ。


「悪いな朝倉。躾けておく」

「どーも…」


リエーフは騒ぐが、夜久はその尻を思い切り蹴飛ばし、リエーフは悲鳴を上げてうずくまった。なかなかバイオレンスな躾だ。
その後ろからやってきた黒尾はニヤニヤとしてそれを見つつ、伊吹の肩をぽんと叩いた。


「なかなか苦戦したな」

「……まぁ、そっすね。モンマルトルの戦いも厳しそうです」

「あの数じゃな。伊吹は木兎たちと特攻するんだろ?」

「はい。さすがに、市街地への被害もやむなしっすね」

「最優先はサクレ=クール内部の民間人だしな、しゃーない。もう行くだろ?」

「…はい、じゃあこれで」


黒尾はサバサバとしているため、もう手を振って来る。リエーフは夜久にどやされていた。伊吹は軽く会釈だけしてから、通りを東へと向かう。これから”Wing”とともにこの先のケーブルカーを駆け上ってモンマルトルへとカチコミに行くのだ。



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