第三話: Montmartre Grim Reaper−2


伊吹はアベス駅からイヴォンヌ・ル・タック通りを抜けて、オシャレなカフェが面する交差点を直進しタルデュ通りに入った。この辺りは、1区などと比べると建物が白を基調としていることが多く、全体的に白っぽい街並みとなっている。建物も小さく、まさに下町らしい地区だ。

交差点から通りに入ってすぐのあたりには、すでに烏養の無線を聞いて集まった第一中隊”Wing”のうち、第一小隊”Crow”と第二小隊”Eagle”がいた。オープン無線ではなく、中隊内の無線で直井が指示したのだろう。ここにいない第三小隊”Owl”と第四小隊”Seagull”は丘の反対側にいるはずだ。北と南から挟撃するのである。

南側にはケーブルカーがあり、このタルデュ通りを少し行けば広場と駅がある。上った先はすぐサクレ=クール寺院と展望台だ。

澤村と牛島はこちらに気付くと向こうから近づいてきて、澤村が声をかけてくる。


「伊吹、状況的には西谷と山形を先頭に全員でケーブルカーの線路を駆け上がればいいと思うんだが、どうだ?」

「それしかないと思います。二人の後ろには、二人が寺院に向かったあとに防御の隙を突かれないよう範囲攻撃が得意な人がいいんじゃねっすか」

「俺と澤村でいいだろう。伊吹は上空からフォローを頼む」

「了解です。二次入隊組はどうっすか」

「”Eagle”の三人は問題ない」

「うーん、こっちはまだまだだけど、最後尾でスガと田中に見ててもらうし、伊吹もどうせ日向たちのこと気にかけてくれるだろ」


簡単な打ち合わせはここまでくればもう済んだも同然だ。澤村はにやりと笑って伊吹の考えていたことを言い当てる。

第一小隊は二次入隊組が非常に多く、特に日向や月島、山口は民間人上がりだ。第二小隊は二次入隊組の三人も非常に優秀で粒ぞろいであるのと比べれば劣るが、しかし第一小隊は最も使える魔法のバリエーションが多い。臨機応変な対応ができる、まさに大隊の遊撃担当である。


「…別にいっすけど。つか、牛島さんたち元気有り余ってますよね」

「元気ではあるが飛べないからな、上空からのフォローは任せた」

「一回助けるごとにバーゲンダッツっすからね、澤村さん」

「おー、いいぞ」


日向たちの面倒をかなり見させられている自覚はあるためぶすっと言うが、澤村は相変わらず男前で響かない。

そういえばこの先にくだんのバーゲンダッツパーラーがあったような、と思ったときだった。


「…ッ、まずい、」


ぞわりとした悪寒、伊吹はすぐに魔法だと気づいた。瞬きすれば視界は主観の透視となり、建物に隠れたケーブルカーの方から猛烈な勢いで魔力が放たれたのが見えた。


「西谷ァ!!!」


思わず叫ぶと、西谷は咄嗟に伊吹の視線から判断して孤立空間魔法を展開させた。一瞬にして伊吹たちの周りに真っ黒な壁が出現し、直後、轟音とともに通りの北側の建物が吹き飛んだ。木造の建物は粉々に砕けてガラスが割れ、火花が散って家財道具などさまざまなものが空中に舞い上がる。

吹き飛ばされた建物の瓦礫は孤立空間魔法に阻まれて道路に落下するが、一部は通りを挟んで反対側の建物に衝突して窓ガラスや壁を砕く。

牛島はすぐに事態を把握すると、西谷と山形の方を向いた。


「西谷、山形を先頭に総員10時方向へ!モンマルトルに直進する!!」


その号令とともに、西谷と山形は並んで走り出し、その後ろに牛島と澤村が続く。残りの2つの小隊のメンバーは混ざった状態でとにかく走った。敵に先手を打たれてしまった。恐らく、こちらの存在に気付ける何らかの工作をしたのだろう。やはり戦争とは一筋縄ではいかない。

烏養の号令は出ていないものの、牛島も階級は伊吹と同じ大尉だ、その号令はここにいる全員が従わなければならない。

まだ粉塵が通りに満ちる中、一同は広場に飛び出した。伊吹は可視化魔法で煙の中の広場を捉え、ケーブルカーの乗り場にいる魔法科を発見した。


伊吹はその座標で爆轟魔法を展開させ駅ごと爆破したが、やはりシールドによって兵士は怪我すらないようで、爆発による煙の中から衝撃波を撃ち出してきた。山形が孤立空間魔法によって防いだが、残りの衝撃波は後方へと向かい、広場に面するパーラーの入った建物を吹き飛ばした。

後ろから聞こえる轟音に背を押されるように、第一小隊と第二小隊は破壊されたケーブルカーの駅からまっすぐな線路を登り始める。


「こちら朝倉、サンピエール公園にて会敵。山麓駅より丘の頂上を目指します」

『こちら烏養、了解。”Owl”と”Seagull”も進軍開始』

『こちら諏訪、了解しました』


伊吹も駅から急角度の斜面を登り始めたが、ふと、先ほどの魔法科の姿が見えないことに気付く。煙が依然として漂う公園を透視で見渡してみると、なんと魔法科兵士が倒れていた。足元から首にかけてまとわりついた植物を見て納得する。

あれは木下の制育魔法だ。制育魔法とは、動物や植物の生命活動をコントロールするとんでもない魔法であり、兵士の足元の草を一気に成長させて首を絞めたのだと分かる。ゼロ距離ならばシールドも発動できない。細胞構造が複雑であればあるほどこの制育魔法は魔力を必要とすることから、木下は植物にしか使えない。

もし伊吹がこの魔法を使えていたら、人間を強引に老化させることもできただろう。ただし、この魔法は不可逆的であるため戻すことはできない。若返りなどはできないのである。


90/293
prev next
back
表紙へ戻る