第三話: Montmartre Grim Reaper−3


ケーブルカーの線路に沿って丘の斜面を登り始めると、すぐに煙が晴れて両脇の木々と青空が見えるようになったが、同時に、頂上からこちらに攻撃する魔法科兵士たちも見えた。魔法科兵は3人、普通科も20名ほどがこちらに発砲してくる。

発砲についてはイネクシアの自動シールドで防げるとして、問題は魔法だ。敵兵は衝撃波や爆発によって伊吹への攻撃を連続してきていた。

先頭に立つ澤村は、おもむろに立ち止まってコンクリートの地面に手を当てる。直後、こちらを見下ろす魔法科の足元が吹き飛んだ。土がアスファルトを砕いて舞い上がっていることから、澤村が地金魔法を使っているのだと分かる。
澤村に操作された土がアスファルトごと兵士を吹き飛ばし、空中に投げ出された魔法科兵をすかさず西谷が孤立空間魔法の箱に閉じ込める。空中に浮かぶ箱の中からは、出ることも入ることもできない。

西谷は振り返り、影山に視線を向けた。


「影山!箱に数ミリだけ穴開けてある!独立爆轟魔法できっか!?」

「いけます」


完全に孤立空間魔法で閉じた箱であれば、魔力があの箱の中に入ることはできない。しかしごくわずかに穴を開けていれば、そこから魔力が入れる。

そうすると、箱の中で爆轟魔法を起こすことができ、爆発によって酸素を燃焼させ兵士を窒息させられるのだ。数ミリの穴から魔力を通してから独立爆轟魔法とするのは、針に糸を通すようなものだが、影山は見事に二つの箱の中で爆発を起こして見せた。

西谷が魔法を解けば、中からぐったりとした魔法科兵二人が落下した。


「やるねェ」


それを見ていた隣の天童が走りながらつぶやく。チームというより個々の力を重視する第二小隊ではできない芸当だからだろう。


「…天童さん、」

「ん〜?」

「洗脳魔法はシールドに防がれるんすか」

「防がれるヨ〜。ロシア軍のシールド兵器、魔力そのものに反応してるからネ」


独立魔法を含め、どんな魔法でも展開の瞬間は術者から展開地点への魔力の移動が起きる。それに反応してシールドが生成されるため、直接攻撃する手段がないといえる。シールドが反応する領域があり、そしてその領域への急速な物理的衝撃と魔力を帯びたエネルギーに対して反応しているものと考えられる。


「シールドごと押しつぶす、失神させる、魔法ではないエネルギーを当てる、シールド感知領域の内側まで接近するってとこっすかね」

「ぶっは、ゼロ距離狙いなの若利君と思考が一緒〜」


けらけらと天童は笑う。確かに、魔法使い相手にゼロ距離まで詰めるなどというのはそうそう考慮しないことだろう。


「脳筋とでも言いてぇんすか」

「俺は好きだヨ、そういうの」


否定しなかったが、伊吹も否定できない。


そうこうするうちに全員山頂に到達した。澤村によって山頂駅あたりは土ごとひっくり返されめちゃくちゃになっている。正面にはサン=テルトル通りという二車線の道路が、右手には展望台がある。そして、白亜の荘厳な寺院が聳えていた。日向たちは思わずといった感じで見上げているが、すでに牛島や澤村は周囲の敵兵を吹き飛ばし、西谷と山形は寺院の入り口にいる聖職者たちを守りに寺院へと向かっていた。


伊吹はそのタイミングで風気魔法によって浮き上がると、俯瞰して見渡した。

山頂駅からすぐ、サン=テルトル通りの反対側にサクレ=クール寺院の入り口広場があり、柵で区切られた階段の向こうに正面玄関がある。そこには西谷が二人の聖職者を守るように立ちはだかっていた。山形は横の別の入り口に向かっている。

牛島はサン=テルトル通りを東へ、澤村は西へ進んで掃討を開始しており、他の第一小隊と第二小隊のメンバーは寺院のサン=テルトル通りを挟んで南側に広がる展望台に展開していた。

この展望台は、サン=テルトル通りから広い横幅に渡って南へ傾斜する階段と、階段の先の展望広場から成っており、平常時であればこの階段に多くの人が座ってパリの街並みを眺めていた。
階段や展望広場からは、ルーヴル美術館やモンパルナスなどパリの市街地と広大な平野が見渡せるようになっている。今、広場から見えるのは、広大な街並みとそこから立ち上る黒煙、そして青空である。


たまに伊吹がフォローで光電子魔法によるレーザー光線を出して日向たちをフォローしたが、そう広いわけでもない展望台はあっという間に片が付いた。

途中から寺院周辺の掃討に加わっていた瀬見たちも片付いたようで、北側から来た木兎たちとも合流し、あっけなくモンマルトル頂上は掃討された。

すでに西からは第二中隊”Earth”のうち第五小隊”Leaf”と第六小隊”Wall”が、東からは第七小隊”Cat”と第八小隊”Fox”が山を登り始めている。


91/293
prev next
back
表紙へ戻る