第四話: Völkerschlacht−1


第四話: Völkerschlacht(諸国民の戦い)



ドイツ連邦共和国・テューリンゲン州エアフルト上空。


『花の都』作戦の完了後、パリを離れた第1魔法科大隊は、現在ドイツ東部のテューリンゲン州上空を飛行していた。州都エアフルト上空を飛行しており、目的地のザクセン州ライプツィヒまではあと15分程度だ。

なぜパリから一路ライプツィヒに向かっているのかというと、連合軍とEU軍から救援要請があったからだった。本来ならばそこまで積極的に国防軍が動くわけにはいかないが、これは日本政府としても利益をともにする。


機内で、いつも通り烏養が目的地到着前の確認を始めるべく立ち上がり、全員傾聴姿勢となる。


「これがヨーロッパ戦線最後の仕事だ。正直気乗りはしないが…終わり次第、帰国する。朝倉、すまない」


謝った烏養に伊吹は軽く驚く。任務内容が内容だからだろうが、ここまではっきりと気を遣われるとは思わなかった。「いえ、」とだけ返すと、烏養は頷いて続きを始める。


「現在、北ドイツを通過した部隊の大半はパリで俺たちが殲滅した。あとはベルギーやニーダーザクセン州で掃討が続いているが、そこにはもう魔法科はいない。問題は、チェコからドイツ領内に入りザクセン州に駐留している部隊だ。直井、規模は」

「3個師団。魔法科大隊は少なくとも2つ確認されている」

「だ、そうだ。敵軍はライプツィヒ郊外にいる。この部隊はここからバイエルン州へと向かうらしい。日本政府としても、多くの日本人が残っているミュンヘン、インゴルシュタットを守ることを広く自国民救助として許容すると述べている」


豊かなドイツ南部は自動車産業の中心地であり、多くの世界遺産も点在する。何としても守らなけれなならないのはどの国にとっても同じで、パリを僅か3時間で解放してみせた第1魔法科大隊に対して、連合軍とEU軍、そしてドイツ政府とザクセン州政府・バイエルン州政府が共同で依頼を出しているのだ。

しかもその内容は、単なる敵との戦闘ではない。


「そしてこの任務は、関係各所、何よりザクセン州政府とライプツィヒ市当局から、じきじきに朝倉が指名されている。ライプツィヒ市街地を破壊してでも、敵をまとめて殲滅せよ、とのことだ」


伊吹は事前に聞かされていたが、他の隊員は今知ったため驚く。間接的なこの指示はつまり、ティクリートで使ったようなあの戦略核兵器クラスの魔法を使えということだ。

ライプツィヒを吹き飛ばしてでも南ドイツを守ろうというドイツ政府、他の市街地での戦闘を避けたいザクセン州、いち早く欧州戦線を停止させたいEU、そして枢軸国へのけん制をしたい日本と米国、すべての利益をともにする。


「幸い、ドイツ侵攻開始時の弾道ミサイル攻撃でライプツィヒは半壊状態、市民は一人もいない。更地になっても問題ないだろう」


本当はそんなことはないはずだ。インフラを含めすべてをゼロから復興するのは並大抵のことではない。しかし烏養はあえてそう言って伊吹の気を楽にしようとしてくれていた。


「…大丈夫?」


小声で聞いてきたのは、右側に座る昼神だ。「大丈夫」とだけ返して、手元の端末を起動する。なおも昼神は心配そうにしてくれていたが、それで十分だった。

欧州戦線はなおも拡大している。北欧ではデンマークへの攻撃が始まりコペンハーゲンは空爆を受けており、地中海ではロシアとトルコの連合艦隊がイタリアを回ってリオン海に入り、フランス南岸のマルセイユやセートへの攻撃が行われている。

イタリアはドイツ侵攻の際に中立宣言をしており、EU軍にも連合軍にも自軍を提供していなかったため、フランスは東の守りを失い、豊かな南フランスの工業地帯は激しい爆撃を受けている。すでにトゥールーズにも被害が出ていた。ここまで攻撃が続くと、フランスは核兵器の使用も念頭にあることだろう。


「このまま戦争が続けば、フランスと英国も核兵器の使用を検討するようになる。それだけは、避けねぇと」

「でも伊吹は…」

「俺は、大丈夫。少なくとも今は」


伊吹は覗き込んでくる昼神にへたくそな笑みを返した。きっと安心などさせられない。それでも、今ここで伊吹がやらなければならないのだ。


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