特異点F: 炎上汚染都市冬木−1


眩い光、体にかかる重力が消える感覚、そしてそれが一気に戻ってくる気分の悪い心地。疑似レイシフト訓練よりもきついそれらに呻きたくなりながらも、唯斗は恐る恐る目を開けた。


「…これは、くそ、悪夢だな……」


思わず罵倒してしまうくらいには、周りの光景は凄惨なものだった。
燃え盛る炎、立ち上る黒煙、恐らく夜だろうが空は見えない。ビルも住宅も、すべてが崩れて炎を噴き出している。まるで街中で火山が噴火したかのようだ。
管制室に引き続きこんな炎に囲まれるとは嫌な気分だった。

しかしレイシフト自体は無事に成功したようで、幸いにも心身ともに問題はない。コフィンがないため、時空が唯斗を異物だと認識して排除しようとする「意味消失」という現象が懸念されたが、それもなんとかなったらしい。コフィンは様々な機能を持つが、その一つがレイシフトしても時空の排除圧力から守るものだった。

周囲を見渡しても立香の姿はなく、一人きり。恐らく到着座標が微妙にずれたのだろう。訓練中に見たことがないことや、適応番号が48という数字だったことからも、立香は今日カルデアに来た一般人枠かもしれない。それなら状況が心配だった。

他人のことなどどうでもいいが、ここで死なれるのも夢見が悪い。
仕方なく合流を図るため、唯斗は瓦礫の合間を歩き出した。

しばらくすると、突然、悲鳴が聞こえてきた。女性の甲高い悲鳴で、これだけの惨状の中に死体が一つもないことから、生存者かもしれなかった。慌てて唯斗は走り出し、炎をかいくぐってその姿を視界に収めた。


「何なの、何なのよこいつら!?なんだって私ばっかりこんな目に遭わなくちゃいけないの!?もういや、助けてよレフ!」

「所長…!?」

「雨宮…!なんであなたが、」

「ッ、伏せろ!」


唯斗はそう叫び、オルガマリーに襲い掛かろうとしていた骸骨のようなフード姿の怪物に指先を向けた。まるで銃を模した手遊びのようだが、これは北欧に由来を持つガンドという立派な魔術だ。程度は様々だが、唯斗の場合、それは拳銃を上回る。

撃ち出された光の弾は、怪物に当たり飛散、怪物は呻いて消失した。他にも何体かいたが、それも次々と連射して仕留めていった。

そこへ、足音とともにまた新たな人影が姿を現した。すぐそちらに指先を向けるも、先ほど見ていた姿だったため驚く。向こうもこちらを見て目を見開いていた。


「オルガマリー所長!?」

「あ、あなたたち!?ああもう、一体何がどうなってるのよ!」


やってきたのは立香とマシュだ。立香はともかく、マシュは服装が露出の多い戦闘スーツのようなものになっており、背丈ほどもある巨大な盾を軽々と抱えていた。

一目見て、あれが「デミ・サーヴァント」という人とサーヴァントの融合したものだと理解した。マシュから感じられる魔力の質が人のそれではないのだ。恐らく、あの瀕死の重傷の中で、どうしてかサーヴァントと融合したことでデミ・サーヴァントとなり、立香と契約するサーヴァントとして一緒にレイシフトしてきたのだろう。

あのときシステムがアナウンスした適応番号は、末席の48である立香と、予備として番号が繰り下げられたばかりの49番である唯斗だけだった。

そう考えると、いったいなぜオルガマリーがここにいるのだろうか。

そんな疑問は、オルガマリーの「どういうこと?」という澄んだ声に消える。今はそれどころではない。


「所長?あぁ、私の状況ですね、信じがたいことだとは思いますが、実は…」

「サーヴァントとの融合、デミ・サーヴァントでしょ。そんなの見れば分かるわよ。私が聞きたいのは、どうして今になって成功したのかって話よ!」


召喚術を代々継承してきた血筋の唯斗は、デミ・サーヴァントも概念は知っていた。しかし、実際にはそんなことに応じる英霊がいるとは考えられず、マシュがこうして存在していることに正直かなり驚いている。極めて貴重なサンプルだが、オルガマリーの口ぶりからすると、もしかしたらカルデアではデミ・サーヴァントの実験も行われていたのかもしれない。


「…いいえ、それよりあなた!私の演説に遅刻した一般人!なんでマスターになっているの!?サーヴァントと契約できるのは一流の魔術師だけ!どんな乱暴を働いて契約したっていうの!?」

「ご、誤解です!!」


するとオルガマリーは立香にそう糾弾し始めた。慌てる立香に、さすがにマシュもまずいと思ったのだろう、状況把握を提案した。オルガマリーが応じ、マシュはこちらも確認するように見てきたので、唯斗もとりあえず頷いた。


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