特異点F: 炎上汚染都市冬木−2
いったい何が起きているのか、ここに来て何が起きたのか。立香とマシュ、オルガマリーが話し終え、唯斗の番になった。こうやって誰かの前で改まって話をする機会などほとんどなかったため、ひどく居心地が悪い。
「あー…立香、だっけ。改めて自己紹介しておく。俺は雨宮唯斗、マスター候補、もとい予備員だ。予備だからファーストオーダーには参加してなくて、爆発を免れた」
「あら、あなた日本人にはそうやって名乗るのね」
からかうように言ってきたオルガマリーを軽く睨むが、しかし最も平等に唯斗を扱ったのもこの所長であるため、追及はしなかった。
外国人ばかりのカルデアでは、ファーストネームで呼び合うのが普通だ。いちいち長い名字を名乗ることもない。そのため、同じ日本人でも名前で呼んでいたし、唯斗も名前で呼ばれることに特に抵抗はなかった。
「そっか、やっぱ日本人だったんだ。そうかな、とは思ったんだけど…クォーター?」
「…そうだ」
「ミドルネームはグロスヴァレ、フランスの召喚術の名門ですよね。唯斗さんはとても優秀な魔術師です」
「へぇ〜、ミドルネームってカッコイイよなぁ」
「……で?」
「え…、あ、いや、それだけ……です……」
かっこいい、とだけ述べた立香に、それが何かと分からず聞き返したが、なぜか委縮されてしまった。マシュも「き、機嫌を損ねるようなことを言ってしまいましたか…!?」と焦っている。それを見て、事情を知るオルガマリーは呆れていた。
「…ほんとに何も知らないんだな、一般枠って」
「そうよ。まぁ、魔術協会内部の事情はマシュもあまり知らないようだけど。でもあなたにはどうでもいいことでしょう?」
「その通りだ。とにかく、この場で戦闘力があるのは俺とマシュだけだ。俺だって基本的なことしかできない」
「え、でもさっき敵を一掃しているように見えたけど…」
立香は首をかしげるが、唯斗は召喚術以外は特別なことなどない。ただ少し、人より魔術回路が発達しているだけだ。
「この男は魔術回路が桁外れに発達しているの。生意気にも私を差し置いて。確かに技術は平凡ですが、魔術回路が発達しているということは、生成できる魔力量はもちろん、大気中からのマナの取り込みも桁外れということを意味します。ただのガンドがまるで破壊光線よ」
魔力は大きく分けて二種類ある。マナという大気中に存在する自然界のものと、オドという自身の魔力回路で生成するものだ。
この特異点Fは大気中のマナ濃度が極めて高く、まるで神が存在した神代のようなレベルだ。そのため、大気中から大量にマナを取り込んでガンドを放てば、強力なものとなる。
もともとオドの生成量も多いため、唯斗は大気中と合わせて常に大量の魔力を扱える。しかし量が多くてもそれを通す回路が細ければ意味がない。唯斗の魔術回路は魔力を通すという意味でも高度なものであり、大量に魔力を通して大量に放出できる。
ただし、時計塔にいたわけでもないため、唯斗が使える魔術は基礎的なものだけなのだ。
「…俺のことはいいだろ。それよりも、他のマスター候補が全員コフィンにいた以上、あのときレイシフトできたのはコフィン外にいた俺たちだけ。戦えるのはマシュがメインで俺が補佐くらい。俺が弱いというより、サーヴァントがそれだけ人と違うってことだ。目下すべきことはカルデアとの通信を再開するために召喚術式を展開することだと思うんだけど」
「……あなたそんなに喋れるのね。ってそうじゃない、仕切らないでちょうだい予備員!マシュ、その盾でベースを敷くわ。まずは霊脈を…」
「ここがその霊脈です、所長」
「わ、分かってたわよ!早くして!」
ぷりぷりとするオルガマリーをよそに、冷静にマシュは霊脈であるここに盾を置いて召喚ベースの設置を始めた。さすがに唯斗は霊脈をすぐに見つけることはできないため、探そうと思ったらかなり集中しなければならない。
召喚術式によってカルデアとこちらとを接続することで、通信や物資を召喚によって特異点と共有することができる。ここまでは本来、Aチームが行うことになっていたことだ。