サーヴァントの距離−8


基本的には、この深層心理からは自然に出ていけるはずだ。いや、そもそもいくらマスターとはいえ勝手に入り込むことなどできない領域である。
それにも関わらずこうして唯斗がいるということは、何か理由があるだろう。


「…サンソン。俺がここに来たのは、多分、お前が何か抱えてるからだ」

「……そう、だと思います…いえ、そうでしょう」


言いづらそうにしているサンソン。当然だ、できることなら留めておきたいことだったから深層心理に淀んでいたのだ。


「ここで話して解決するならベストだけど、そうはいかないだろうな。それで、サンソン。あそこで処刑されそうになっている人々は、サンソンの意識の中で処刑されるべき人々なのか?」

「…なんだ、あれは」


どうやらサンソンは、これでも唯斗の安全の確保と状況把握に勤めていてくれたようで、広場で起きていることに気付いていなかった。ただの人の集まりに見えていたのだろう。もしくは、「見たくなかった」のか。


「…止めましょう、どう見てもあれは、法に基づくものとは思えない…!」

「じゃあ行くか」


普段なら無駄だと言いたいところだが、ここは現実ではない。サンソンが言うなら従うべきである。血相を変えて群衆に走るサンソンの後ろについていき、今まさに刑が執行されそうになっている男性に向かって落ちる刃に、ダメ元で魔術を使ってみた。


「ヴィアン」


すると刃は消え、唯斗の足元に転がった。どうやらサンソンの意識の世界であるここでも魔術が使えるようだ。これはサンソンが唯斗の魔術を知っているから、再現が可能であるというだけだと思われる。


「なんだ、刃がいきなり…!」

「おい、何をしてるんだ!」


動揺する兵士たちに、群衆を割ってサンソンが怒鳴った。人々はこわごわと道を開け、サンソンから離れる。空いた空間を唯斗も歩いてついていくと、兵士はサンソンに怒鳴り返した。


「貴様!何者だ!国王陛下の!主の意向に反するというのか!」

「この不届き者め!」

「お前たちのそれは死刑でもなんでもない!ただの虐殺だろう!」

「…それをお前が言うのか、シャルル=アンリ・サンソン」

「ッ、なに…!?」


突然、兵士はそう言うと、顔を歪めてサンソンを睨みつけた。ギロチン台から降りてきた兵士たちはサンソンと対峙する。


「お前のやったことと何が違う」

「違う!僕がやったことは処刑だ、刑の執行であり僕は国家の刃だ!処刑と殺人は違う、違わなければならない!」

「あれだけ無実の者たちを処刑したお前が、殺人鬼じゃないとでも言うのか?」


兵士は嘲笑交じりにそう言った。その言葉にサンソンは目を見開く。


「な…違う、僕は、」

「違わないさ!2700人以上も処刑したお前が!罪のない人間たちを虐殺したお前が!殺人鬼じゃないならなんだというんだ?!」

「ちが、違う…!僕は、殺人など…っ、」


サンソンは声を震わせると、視線を落として兵士たちと目を合わせられなくなる。そして、目元を両手で覆って「違う、違う…!」とうわごとのように呟く。
さらに追い打ちをかけるようにして、兵士は言った。


「お前が殺したんだ。マリー・アントワネットも」

「ッ!!」

「汚れた手で正義を司るな!穢れた心で権利を語るな!殺してやろうシャルル=アンリ・サンソン!!!」


兵士たちは一斉に剣を構えると、サンソンに切りかかった。サンソンは相変わらず手で顔を覆ったままだ。
「マリー、マリア、僕が殺したのか、君を」と震えながら。

その瞬間、唯斗の結界が兵士たちの剣を弾いた。いつの間にか取り囲んでいた群衆はいなくなっており、兵士たちが突然展開された幾何学模様の魔法陣に慄きながら、何度も切り掛かった。


「何やってんだ、サンソン」

「……マスター、」

「…こっちを見ろ」


唯斗は結界で兵士たちを囲んでから、サンソンの正面に立つ。敵には背を向けているが、結界に剣を切りつける音は聞こえていた。
サンソンは手で顔を覆ったままだったが、恐る恐るその手を離し、こちらをその隙間から見下ろす。


「…お前は召喚されてからずっと、俺との接触を避けて、俺だけでなく他のサーヴァントとも一定の距離を置いたままだな。アーサーと違って、物理的に」


アーサーもサーヴァントたちとは距離を置いているタイプだが、サンソンのそれはより物理的だった。誰かと相席することはないし、隣に座るというようなことすらない。


「自分の手は多くの人間を処刑した血塗られた手だ、ってとこか」

「…分かっていたのですか」

「察してただけだ。具体的なことは、ここに来て気付いた。お前が抱えてること。そして、マリーが召喚されてからそれは急に大きくなったんだな」


サンソンのそういった行動は察していたのだが、この深層心理に来てから、より具体的になった。
無実の人々が処刑される様子、兵士たちの言葉。これはサンソンの迷いであり、後悔であり、恐怖だ。多くの無罪の人々を処刑した自分は殺人鬼と何が違うのか、処刑と殺人の違いは何なのか。答えの出ない自問自答に英霊になっても苦しみ続けていて、マリーが最近カルデアに召喚されたことで、それは罪の意識として余計に大きくなった。


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