封鎖終局四海オケアノスI−1
いよいよ第三特異点へのレイシフトの日となった。
1573年の海上、としか情報がない漠然とした状態だ。もちろん、レイシフトした先が水中ということはないように手配しているとのことだが、島か船の上に出ることになるだろう。
該当する海域は特定できず、どうやら複数の海が複雑に混ざり合った場所の特定ができない領域らしい。
第二特異点でレフはアルテラに切り裂かれ恐らく死亡、その後、魔神柱なるソロモンの72柱の悪魔が何者なのか結論は出ていない。数値上は悪魔だが、ソロモンの72柱というものに現代的な悪魔像が付与されるのはずっと後の時代のことであるため、ロマニの弁では騙っているだけだろうとのことだった。
唯斗もそれには概ね賛同している。魔術とは神秘だが、空想ではないのだ。
とにもかくにも、カルデアができるのは特異点の修復と聖杯の回収のみ。今回もまずは聖杯探索のために大航海時代へとレイシフトを行う。
『アンサモンプログラムスタート。霊子変換を開始します。レイシフトまで、3、2、1…』
体が霊子となり重力を脱すると同時に、五感が消えて意識だけが移動を開始する。
直後、急速に重力と五感が復帰して、板の上に着地した。一気に鼓膜が音を拾い、唐突に波の音、ざわめく男たちの声が聞こえてくる。
すぐに周囲を見渡すと、そこは船の上であり、突如として現れた唯斗たちを取り囲む粗暴そうな男たちが目についた。
ここが海賊船の甲板であるということを理解するのに、時間はかからなかった。
***
「…マシュ、これって……」
唖然としたようにこちらを見る男たちに、立香も同じく察しているようだ。
すでにアーサーは見えない剣を構え、マシュも盾で立香を守るように立つ。
「…ロマニ、確かにピンポイントで船の上に出られたのは評価するけど、どんな船かを選ぶくらいの配慮も欲しかったな」
『…まぁでもほら、無人島にレイシフトロビンソンするよりマシだったんじゃないかな?』
通信に呼びかけると、ロマニのそんな釈明が聞こえてくる。さすがのマシュも米神をひくつかせていた。
「よく分からねぇが、やっちまえ!」
「やはりドクター・ロマンには何らかの処罰が必要なようです!」
『ごめんよ、悪気はなかったんだよぅ!』
情けないロマニの声を無視して、戦闘に入った。
相手は人間、そして事前に想定していた通りの展開である。だが人数からしてアーサーとマシュだけで事足りるだろう。
男たちの攻撃を弾くマシュと、すぐに二人を沈めたアーサーを見ながら、唯斗は隣に立つ立香に声をかける。
「ローマと違って、航海に必要な要員は残さなきゃならない。それ以外は、船を傷つけず確実に制圧するという制限の中にあるからには、海に落ちるくらいしても平気だな?」
「何言ってんの唯斗!殺さないし海にも落とさないからな!?」
「またそれか」
「何度でも言うよ!」
やはり立香は犠牲を出す気はないらしい。これだけ狭い環境だ、殺さないならせめて海に突き落として甲板を広くするくらいはいいのではと思うのだが、それも許さないらしい。
「イングランドやスペインの船ならまだしも、海賊だぞ。あいつらだって人々から命や財産を奪って生きてる」
「だからといって俺たちが殺していい理由にはならない」
「殺そうと思って殺すわけじゃない、結果的にそうなってでも確実な戦い方をするべきだって話だ。自害をかねて船ごと爆破されたらどうすんだ」
「そのときはそのとき!」
「適当言いやがって…」
マシュの盾を抜けてこちらに接近する海賊に、唯斗はガンドを放って吹き飛ばす。マストに叩き付けられた男は昏倒した。
「殺した?!」
「死んでねぇ。多分」
「唯斗!」
「あーうるせぇ!殺してないって!せいぜい軽い脳震盪で済んでる!!」
『こ、こら二人とも、喧嘩しない』
「あんたは黙ってろ」「ロマンは黙ってて!」
『ええ……』
言い合いをしていると、ロマニが諫めるが、それをぴしゃりと撥ね除ける唯斗と立香の声が重なった。それにも若干苛立っていると、どうやら海賊たちが降伏の意志を示したらしい。
「終わったよ、マスター」
アーサーが剣を消してこちらに戻ってくる。マシュは男の一人を尋問していた。唯斗の意図を理解しているアーサーは、立香との口げんかの内容にはもう触れない。その代わり、落ち着け、とでも言うように軽く唯斗の頭を撫でた。
子供扱いされていることにさらに気が立つが、事実、子供っぽいことをした自覚もある。唯斗は黙って、マシュの質問に答える男に意識を向けた。