封鎖終局四海オケアノスI−4
「姐御!姐御〜!敵…じゃねぇや、客人です!姐御と話がしたいって言ってます!」
「ああん?ったく、人が気分良くラム酒を飲んでいるときに…客人?海賊かい?」
「えーと、多分違いやす!うちらよりいくぶん上品で、いくぶん乱暴です!」
男に連れられて森を抜けると、そこには粗末な布で雨よけを作った簡単な野営地のようなものが広がっていた。
そこで大きな木のジョッキで酒を呷っている豊満なバストの女性が、気怠そうにこちらを振り返る。その青い瞳はこちらを見ると、ひょいっと眉を上げる。
「……こりゃまた、随分きてれつなものを連れてきたねボンベ」
「へえ、でも見所はあるっすよ。あっしらの命を助けたばかりか、憧れの船長に会いたいとかなんとか」
赤紫の長い髪に海賊船長らしいハットの女性は、会話からして、フランシス・ドレイクだ。姐御と呼んでいた時点でまたこのパターンかと思ってはいたが、まさか本当に女性だったとは。
もはや驚きはない。隣にいるアーサーだって、この世界では女性だったのだから。
「まあいい、下がりなボンベ。話はあたしがする」
ボンベと呼ばれた三下の男を下がらせると、ドレイクは立ち上がってこちらに対峙する。
「それで、あんたら何者だい?うちのアホどもが世話になったようだけど?」
「フランシス・ドレイク船長ですね。私はカルデアに所属するマシュ・キリエライトです。こちらは私のマスター、藤丸立香。そしてこちらは…」
「アーサー・ペンドラゴンという。初めまして、ミス・ドレイク。こちらは私のマスターである雨宮唯斗だ」
「…カルデア?星見屋が何の用だい。それにアーサー・ペンドラゴンなんてまぁ、また大それた名乗りだこった」
『うわ、意外に博識だぞこの酔っ払い…!』
ドレイクは知識にも優れた人物のようで、カルデアが古代バビロニアで占星術士を意味する階級名であったことを知っている。また、ある意味イングランド人なら当然とも言うべきか、アーサー王伝説のことも知っているようだ。
ロマニの通信の声を聞いて、ドレイクは興味を移して眉間に皺を寄せる。
「なんか薄っぺらい声がするね。あたしが一番嫌いで、弱気で、悲観主義で、根性なしで、そのくせ根っからの善人みたいなチキンの匂いだ」
「完璧です、先輩、この人の分析、というか直感は完璧です」
通信越しにしょんぼりするロマニを放っておいて、マシュは話を続ける。すっかりマシュが状況説明役となった。
カルデアとして時代の修復のために来た、という言葉に、ドレイクはいまいち分からなさそうにする。
「フランシス・ドレイク船長。聡明なあなたなら気づいているのではないですか。この時代、この世界は何かがおかしいということを。あなたたちが過ごしてきた海と、今広がっている海は別のものだということを」
「…ふうん。世界だの時代だの言われても無視を決め込む腹だったが…海の話をされちゃあ無視できない。確かにあたしもおかしい、とは思っていた。だがね、そのおかしいは異常って意味じゃない。こんなに面白おかしい世界は他にないってことさ!そうだろお前たち!」
ドレイクが海賊たちに呼びかけると、男たちは歓声を上げる。ラム酒を飲む男たちは酒臭い。
「というわけだ!あたしたち海賊は自由のためなら、あらゆる悪徳を許容するんでね!どうしてもあたしと話をしたいってんなら、まずは力試しといこうじゃないか!このフランシス・ドレイクを倒してみな!」
「ええ…」
立香は急な展開に戸惑いつつ、そのわりにすぐマシュを臨戦態勢にさせる。まだ召喚サークルはないため、この場の戦力だけだ。
相手はサーヴァントではない生身の人間。当然、峰打ちが前提である。
「…ま、話が早くていいか」
「マスターは脳筋だものね」
「まあな。よしアーサー、肉体言語だ」
マシュとアーサーがドレイクとの戦闘準備に入る。こちらに攻撃が及ぶことはないだろうが、ドレイクを傷つけすぎず、かつこちらも傷つかないように際どいラインを監督する必要がある。