封鎖終局四海オケアノスI−6
そうしてドレイクとボンベが語るとこによると、それはとんでもない経緯によって得られたものだった。
なんでも、あちこちに渦が出現する中、ドレイクたちは海底に現れたアトランティスにいたポセイドンを名乗る怪物を倒し、この聖杯を奪ったそうだ。
なんと、ドレイクはさくっとノリで世界を救っていたのである。
慌ててマシュはロマニに報告し、ドレイクにも聖杯の正体を説明する。聖杯は勝手にドレイクの体の中に入り込んでいき、これが彼女の強さの元だったのだと分かる。
「なんだこの特異点は…」
「本当にね…」
アーサーと二人、何かもめちゃくちゃな特異点にもはや呆れてしまう。
ドレイクはマシュの説明に、再び聖杯を体から出す。
「で?あんたらはこれがあれば自分の国に帰れるって?」
「はい、一応そうなります」
「ふーん。ま、あんたたちに負けたのは確かだし。命以外はくれてやるって言ったしね。ほいよ、受け取りな」
ドレイクはためらいなく聖杯をマシュに渡す。唯斗は間近にそれを見たが、どことなく違和感を覚える。
「魔力量が少ない気がするんだけど…過去二つの聖杯と本当に同じか?これ」
「そうだね、僕も疑問だ。少し出力が小さい気がするね」
アーサーも唯斗の隣で聖杯を見つめる。やはりこの聖杯は、他の特異点で見たものとは少し違うようだ。
通信でロマニも同意する。
『…うん、時代のボルトは外れたままだ』
「この時代に元からあったモンとかか?」
『そうだと思う。レフが人理定礎の破壊のためにそれぞれの時代に置いたものではなく、この海に元からあったんだ。ドレイク船長はその聖杯に認められた人物だ』
「正統な聖杯の持ち主であるドレイクと、時代を狂わせるための外来種であるレフの聖杯がシーソーして、そのせいで海が狂ってるってことか。じゃあ、いずれにしてもレフの聖杯を回収しないとこの海はこのままだな」
『そういうことだ』
唯斗とロマニの結論に、ドレイクは理解できないのかマシュに問いかける。
「で、あんたらの目的は達成されたのかい?」
「いえ、この時代にはもう一つ、あってはならないものがあります。それを回収しなければ、この海は永遠にこのままです」
「おいおい物騒なことを言わないでおくれ…本気かい?」
「はい。ですのでこちらはお返しします。これはあなたが持つべきものです、船長」
マシュは聖杯をドレイクに返す。ドレイクは困惑しつつも聖杯を受け取った。
「お、おうとも。こりゃご丁寧にどうも。お宝をあっさり渡すのも初めてだけど、あっさり返されたのも初めてだねぇ…」
「…ドレイク、あんたの聖杯は、あらゆる願いを叶える願望機だ」
またもドレイクの体の中に潜っていった聖杯を見届けてから、唯斗はドレイクの目を見て口を開く。ドレイクはこちらをしかと見つめ返した。
「思うに、あんたは欲しいものは自分で手に入れるタイプだよな?財宝も、香辛料も」
「当たり前さね。海賊が何かに祈って財宝を得るなんて悪夢だろう」
「なるほどな。だから聖杯は、食料や水、ラム酒くらいしか出現させてないわけだ」
唯斗は近くの男が持ってきた水を奪って代わりに渡されていたラム酒を押しつけると、水を立香に飲ませる。そして、立香に代わってドレイクにこちらの要望を伝える。
「もう一つの聖杯は、この海を狂わせるために力を使ってる。イングランドもスペインも、新大陸も、インドも、すべての陸地からこの海は切り離され、俺たちはこの海にある聖杯を回収しない限り永遠に海を出られない。あんたの言う超人は俺たちがなんとかするから、聖杯を探す旅に付き合って欲しい」
「なるほどね。あんたらの目的はよく分かったよ。あたしたちにも無関係じゃない。何より、早くこの海を出て世界一周に出たいんでね。いいよ、足になろう」
「ありがとう、助かる」
「じゃ、あんたも飲もうかイケメン。かのアーサー王とやらを従える強者なんだろう?」
「…えっ」
さりげなく酒から逃げたのを目敏く気づいていたのか、ドレイクはニヤリとしてジョッキを押しつけてくる。そして、思いきり肩を掴まれて酒を流し込まれた。
「ッ?!」
「わっ、マスター!」
慌ててアーサーが助け出すも、度数の強いラム酒が喉を焼きながら胃に落ちていくのが分かった。ふらりとしてアーサーにもたれると、ドレイクは豪快に笑った。
「さあほら、次いつ飲めるか分からないよお前ら!飲めるだけ飲んでおきな!」
「だ、大丈夫かい、マスター…」
ドレイクは男たちに混ざって酒を飲みに行ってしまった。マシュは立香を介抱している。今日はもうこれ以上動けないだろう。
アーサーは話が終わったことを察して、唯斗を連れて集団から少し離れる。
すっかり夜の帳が下りた森の近くまで行くと、たき火の明かりを遠くに見ながら木に凭れて座り、唯斗はアーサーの膝の間に座らされる。
「お酒は弱いんだったね」
「……まぁな………あー、まぁでも、悪くねぇかも。この時代のラム酒」
「マスター…?」
少ししか飲まなかったからか、ふわふわとした心地が悪くない。度数が高かったため、一口ちょっとで酔っているようだ。
アーサーに凭れるようにして抱きつくと、その詰め襟越しに首元に顔を埋める。
「お、おお…マスターは酔うと甘えたになるんだね…」
「別に甘えてねぇ……」
「…ふふ、そっか」
アーサーは小さく笑うと、唯斗の頭を撫でる。ドレイクたちの喧噪は遠く、森の虫や風の音だけが聞こえてくる。
アーサーの温もりと清潔な匂いに包まれて、酒による浮ついた感覚もあって、睡魔が首をもたげてきた。
「…寝る」
「うん。おやすみ、マスター」
アーサーが拒否するはずもなく、受け入れられていよいよ瞼が落ちる。酒による強制的なものではあるものの、普段より遥かにすんなりと眠りに就くことができたのだった。