封鎖終局四海オケアノスI−7


翌日、ドレイクの船であるゴールデン・ハインド号に乗っていよいよ海に出ると、アーサーはマスターである唯斗が客室でロマニと通信している間に甲板に出た。
どこまでも続く大海原を見渡していると、隣にもう一人のマスターである立香が立つ。ちらりと見ると、マシュと二人、アーサーの隣に立っていた。


「アーサー王、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「なんだい?」


立香の質問に、マシュも何かという顔で見ている。どうやら二人揃って何かを聞きに来たわけではなく、単にマシュは立香に着いてきただけらしい。


「…唯斗はさ、別に人を殺すことに積極的とまではいかないけど、躊躇いもないよね。まだ誰も殺してないと思うけど、それでも、なんで唯斗はそんな潔くできるんだろって思って……」

「…?つまり、マスターが藤丸君と違って、特異点での殺傷に躊躇しない理由を僕が知ってるか、ってことかな?」

「…うん、そう。唯斗は別に、非道なヤツじゃない。むしろ優しい性格だと思う、そう見えないだけで。だから不思議なんだ」

「先輩…そうですね、私も少し不思議です。戦うことが、人を殺してしまうことが、怖くはないのでしょうか」


立香とマシュは同じ疑問を感じていたようで、ここに来てから衝突が続いた立香はアーサーについに質問を投げかけることにしたようだ。


「フランスでは、基本的に敵に人はいなかった。ローマでは、俺が殺さないように強く言ったのもあって、殺さないでくれたけど、無理させちゃって…ローマでも、この特異点に来てからも、何度か口げんかしちゃってて、唯斗が言うことも間違ってないとは思うけど、やっぱり、俺は特異点でも人を殺すことはしたくないし、させたくない」

「先輩…」


立香も唯斗の立場や考え方はある程度理解している。そしてそれが間違っているとも思っていないようだ。
唯斗が冷酷な人間でないことも知っていて、だからこそ、口げんかをする中で疑問が膨らんでいる。

アーサーは当然、唯斗の行動原理を知っている。アーサーだって誤解していたし、立香たちと同じことを考えていたため、立香たちの疑問も理解できる。

唯斗は立香と自分だったら立香の方が元の世界に戻らなければならないと考えている。命の優先順位があるとすれば、それは他人にどれだけ求められているかで、家族も友人もいない自分と違って立香が死んだら悲しむ人が多いから、自分より優先されるべきだと。

そして、立香にとって予備員である自分の存在があるだけで安心できる材料になるため、あくまで合理的に振る舞うことで立香が安心して前に出て行けるようにして、いざというときは立香を押しのけて自分が犠牲になるのだ。

だがそれを言ってしまえば立香は唯斗のことも守ろうとしてしまうだろうから、決して伝えることはしないと言っていた。
だからアーサーも答えるわけにはいかない。


「…僕の口からは言えない。ごめんね。でも一つだけ言えるのは、感情の乏しいように見える唯斗だって、誰かの犠牲に何も思わないわけじゃないよってことだけ。合理的であろうとするけれど、でも、感情を切り捨てたわけでもないんだ」

「……分かった、ありがとう。そうだよね、本人から直接聞くべきことだし、本人が言いたくないなら聞かないでおく。でも俺は、きっとマシュも、唯斗が人の死をなんとも思わないような非人間だとは思ってないからね」

「うん。僕もマスターも、分かってるよ。人類最後のマスターが君たちで良かった。喧嘩はこれからもするだろうけど、目指すところは一致してる。仲良くね」

「そうする、って言っても、俺も折れないけどね」


立香はそう言って笑ったが、やはり唯斗と意見を衝突させることにネガティブな感情は抱いておらず、むしろそんな唯斗という存在を必要としている様子だった。
なんだかんだ、良い組み合わせではないだろうか。

アーサーは一瞬、昔とある街で出会った人を思い浮かべる。彼と再会してまだ特に何を話したわけではないが、立香と唯斗、この二人がカルデアのマスターで良かったと心から思っている。


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