特異点F: 炎上汚染都市冬木−3
『2人ともご苦労様、空間固定に成功した。これで通信もできるようになったし、補給物資だって』
「はぁ!?なんであなたが仕切っているのロマニ!?」
『うひゃあ!所長、生きてらしたんですか!?あの爆発の中で!?しかも無傷!?どんだけ!?』
ベースの設置が完了し、召喚術式が展開される。ほぼ同時に、カルデアとの通信が復旧した。聞こえてきたのは、なぜか医療セクションのトップであるロマニ・アーキマンの声だった。軽薄な感じに聞こえると称される高めの男の声は情けなく悲鳴を上げた。通信機器が映し出すホログラムには、ピンクとブラウンが混ざった明るい髪を後ろで括った男が映っている。
ロマニの言葉もよそに、再びオルガマリーがレフはどこだと喚き立てる。レフ・ライノール博士はカルデアの上級研究者で、レイシフトの主管でもある。また、オルガマリーとともにシバを開発した。
若くしてカルデアの所長に就任したオルガマリーは誰が見ても限界で、いつもレフにべったりと依存していた。
『現在、生き残ったカルデアの正規スタッフは僕を入れて20人に満たない。僕が作戦指揮を任されているのは、僕より上の階級の生存者がいないためです』
「待って、生き残ったのが20人に満たない?じゃあマスター適性者は?コフィンはどうなったの!?」
『47人全員が危篤状態です。医療器具も足りません。何名かは助けることができても、全員は……』
「ふざけないで、すぐに凍結保存に移行しなさい!蘇生方法は後回し、死なせないのが最優先よ!」
『ああ!そうか、コフィンにはその機能がありました!至急手配します!』
ロマニがカルデアの現状を説明すると、オルガマリーはすぐにそう怒鳴った。口調は荒いが、確かにその通りだ。コフィンには中の術者を凍結保存する機能が備わっており、それはこうした事故を想定していた。
まだ安心とまではいかないが、マスターたちがギリギリ死んではいないと聞いて唯斗は息をつく。Aチームのマシュ以外のメンバー、特に先ほどマシュが気遣ってくれた人物であるカドックという青年も、まだ死んでいないのなら蘇生の余地がある。
友人、と呼べるのかは分からないが、カルデアで唯斗がまともな親交のあった唯一の人物だった。
それにしても僅か20人だけが生き残りとは、それだけで4人ものレイシフトを維持していることになる。よくロマニもここまで奮闘したものだ。
その後通信が切れると、とりあえずこの特異点の探索を行うことになった。一応、任務を継続するらしい。オルガマリーはこれだけの大事故を引き起こして何も成果がないということを避けたいようで、一般枠の立香と予備員の唯斗を連れて特異点Fを調査しこの特異点が発生した原因を確認するのである。
正直、唯斗は作戦から外されようと参加することになろうとどちらでもよかった。無気力だとオルガマリーに言われるし実際そうだが、それはやる気がないというだけで、やるべきことはやる。
特に文句も言わず、唯斗は立香たちとともにベースから出て再び廃墟の中を歩き出した。
とはいっても、時折戦いながらオルガマリーが立香に基本事項をレクチャーするだけで、街中を歩きながら青空教室状態になっている。実際に戦闘指揮をするのが立香ということもあり、それはそれで重要だ。
マシュと唯斗は周囲に気を配り、索敵や戦闘を行っている。
「…マシュ、その盾重くないのか」
「え…はい、大丈夫です。サーヴァントとして身体機能も上がっているので」
「そりゃそうか。愚問だったな」
「そんな……」
当然のことを聞いてしまった。それにしても、マシュが持つ巨大な盾をよく見ると、なんとなく、その盾が持つ性質が感じ取れた。召喚術に優れた家系だけあり、唯斗はグロスヴァレ家と雨宮家両方の資料や文献を多く見てきた。そこにはもちろん、触媒となる聖遺物についても目録がある。
この盾は見るからに聖遺物であり、いろいろと細かいところを見ていくと、欧州、キリスト教圏だと分かる。ケルト神話や北欧神話の時代まではいかないにしても、中世初期のものと考えられた。古代が終わり中世になった欧州において、これだけの召喚術式を展開できるほど高位の聖遺物を残せる英霊と言えば、選択肢は極めて少ない。
フランク王国やゲルマン諸王朝の国王か、東欧のモンゴル・トルコ系異民族などがまずは選択肢になる。しかしそれらがこれだけの上級の術式を展開するほどのものとは考えにくい。となると、あとは一つだけと言っていい。
恐らくこれは、アーサー王伝説に由来を持つものだ。
そのことを確認しようと思ったが、オルガマリーに呼び止められた。