封鎖終局四海オケアノスI−10
広い島内をしばらく回っていると、立香が崖に空いた穴を見つけた。不自然な洞穴のようなものは見るからに怪しく、殺風景な地表よりも、何者かが潜んでいそうな気配がした。
とはいえ、マシュやアーサーが感知できるほどの距離にサーヴァントはいないようだ。
とりあえずその穴に入ってみると、中は洞窟ではなく、人工的な建築物となっていた。
きちんと柱や天井が形作られ、明かりの蝋燭も灯されている。地下迷宮、というやつだ。こんな無人島にこれだけの構造物を作るとは思えない。どう考えても怪しかった。
しかしドレイクはウキウキと進み始める。
「あ、待ってください!規模がどの程度かも分かりませんし、一度撤退して…」
「なあに、撤退したところでやることは変わらないさ。あたしと行動するってことはこういうこと。優等生の自分なんざ仕舞っちまいな、マシュ!さあ進もう、財宝が待っているよ!」
ドレイクは聞かずにずんずん進んでしまった。確かにやることは一緒なのだが、やり方というものがある。
しかしドレイクを見失う方が問題だ。ついて行くほか無く、マシュと立香は諦めてついていくことにしたようだ。唯斗とアーサーも、立香たちに続いて迷宮に入る。人工物なら破壊するだけだし、サーヴァントによるものなら向こうから接触してくる可能性もある。
「右か左か…うん、左!」
「直感…いいのかな、マシュ」
「よくはありませんが…そうだ。マスター、手を繋ぎましょう。ここで万が一はぐれると大変です。手を繋げば普通ははぐれませんから」
すると、勘で進むドレイクの後ろで、マシュが立香に手を繋ぐことを提案した。
立香はマシュからの提案に顔を赤らめる。
「そ、そこまでしなくても…」
「気持ちは分かりますがマスター。恥ずかしがっている場合ではありません」
「マシュも恥ずかしい?」
「の、ノーコメントです…!ともかく、手を握ることが必然であることは立証されました。可決もしました。それでは、失礼します」
立香を押し切ったマシュは、立香の手を握った。立香の方が手が大きいため、マシュから握ったものの彼女の手は立香の手に包まれる。
そんな姿を前で見せつけられたこちらは堪ったものではない。
「…イチャつきやがって……」
「僕らも手を繋ぐかい?」
すると、隣を歩くアーサーがそんなことを言ってきた。思わず右側を歩くアーサーを見上げると、にっこりと微笑みと返される。
「迷ったら大変だ。彼女の言うとおりだと考える」
「俺がはぐれないようにぴったり隣歩いてるくせによく言う」
「確実な方がいいと思わないかい?」
「…ローマでのこと忘れてねぇからな」
いつの間にか姫抱きに慣れさせられた結果恥をかいたことを唯斗は忘れていない。アーサーは「なんのことかな」とはぐらかす。
そこに、「次も左!」というドレイクの声が聞こえてきた。唯斗は左に曲がるが、その先には誰もいなかった。
「…え、」
「おや、言ったそばからこれかい?」
背後から右手を引っ張られ、元の廊下に戻される。どうやら反射で曲がってしまったが、ひとつ手前を曲がってしまったらしい。危なかった。そして、アーサーは手の指先まで覆っていた鎧を手だけ消して唯斗の右手を包んでおり、立香たちの後ろに戻って足を進める。
「さあ行こうか、マスター?」
「………くそ」
一瞬ヒヤリとしたのは確かだ。
唯斗はほんの少しだけ感じた恐怖から、アーサーの手を振りほどくことはせず、右手を包む温もりを享受する。握り返すのは躊躇ったが、誰もいない廊下が今歩いている廊下とまったく変わらない見た目で、本当に一瞬の油断で迷って仕舞いかねないのだと実感し、ついアーサーの左手を握り返してしまった。
「大丈夫だよ、たとえ迷っても、僕が必ず君を見つけ出すから」
「……別に、令呪使って呼び出すこともできるし」
「令呪を使うまでもないさ」
「ちょっとそこ〜、イチャつかないでくれる〜?」
すると、前を歩く立香がからかうように言ってきた。どうにもアーサーと唯斗が距離を近づけると、立香はやたら楽しそうにするのだ。恋バナとやらに興じる女子のような反応である。むかついた唯斗はマシュの手を握る立香に意趣返しをしてやることにした。
「お前らこそいつもイチャついてんだろ。ちゃんとロマニの許可はとったのか?お付き合いするなら挨拶くらいしろよ」
「付き合ってない!」
「そ、そうです!仮にそうだとしてもドクターの許可はいりません!」
「へえ〜」
やめておけばいいのに、ブーメランのリスクを考えずにからかってきた立香に灸を据えられて満足する。ついでにマシュもからかえて大変満足だ。
隣のアーサーは呆れつつも、そんな唯斗たちを微笑ましそうに見ていた。