封鎖終局四海オケアノスI−11
たまに会話を挟みながら迷宮を歩いていると、唯斗は壁から感じる魔力と、内装の様式から徐々にここがどんなものか当たりがついてきた。
「アーサー、古代ギリシアの伝説で、地下迷宮といえば…思い当たるものは一つしかないんだけど…」
「古代ギリシア…確かに、この建築様式はそうだね。となると…」
「これはそのサーヴァントの宝具じゃないか?この宮殿そのものが」
「唯斗さん、ここが何なのか分かったんですか?」
前を歩くマシュも聞こえていたようで、唯斗の言葉に振り返る。
唯斗は頷いて答えようとしたが、その前に、ドレイクの低い声が聞こえてきた。
「ん?なんか匂うな…こりゃ、血だな」
ドレイクの前には血が点々と続いているのが見えた。それを見て推測は確信に変わる。
「地下迷宮の最奥に封印され、子供を食らう怪物の伝説」
「っ、ミノタウロス…!」
すぐにマシュは唯斗の考えを理解する。
ミノス王の妻、パシパエの子である牛頭の怪物、ミノタウロス。正式にはアステリオスと名付けられた。手に負えない怪物となったことでラビュリントスという迷宮に封じられ、9年ごとに7人の少年と7人の少女をアテネから生け贄として捧げることになっていたが、3度目の生け贄として志願したテセウスはこれを倒し、ミノス王の娘アリアドネの糸によってラビュリントスから生還を果たした。
ミノタウロスがサーヴァントとして召喚されるなら、迷宮が宝具となっている可能性は高い。世界的に知られる伝説でありラビリンスの語源でもあることから、英霊としてかなりの強さを誇るはずであり、宝具も空間系として相当な強度となっていることが想定される。
「ここから出るのは不可能に近い。ミノタウロスを倒さないと出られないタイプだろ」
「なるほど…この血痕を辿れば会敵できるでしょうか」
「あたしはそう踏んでるよ。やることが分かったら突撃だ!」
ドレイクはそう言うと、ずんずんと血痕を追って歩き始めた。マシュたちも続き、唯斗もアーサーと手を繋いだまま歩いた。もうすでに、全員が周囲を警戒していつでも戦闘態勢になれるよう気を張っていた。
「っ、マスター、来るよ」
すると、アーサーが真っ先に鋭く言って剣を構えた。手を離してアーサーの後ろに下がると、マシュも感じたのか盾を構える。
ちょうどやや広いホールのような場所に出たところで、戦うには十分な広さだ。ドレイクは銃口を前方に向ける。
その暗闇から姿を現したのは、2メートルを超える巨体だった。牛の鉄仮面をつけた巨体は、敵意を漲らせて接近する。
「こ、ろす…!」
「でか…」
立香は見上げる巨体に唖然とし、マシュの後ろに下がった。マシュも目を見開いたあと、ぐっと盾を掴む手に力を込めて前に出た。
「この、アステリオスが、みな、ごろしにする…!」
「まぁ、バーサーカーだろうな…」
当然のようにバーサーカーだ。アステリオスは手に持った巨大な斧をこちらに振りかぶった。
すぐにドレイクが発砲するが、銃弾は剥き出しの肌に弾かれる。痛そうにはしていたが、とんでもない強さだ。やはり宝具の攻撃しか効かないのだろう。
再び斧が薙ぎ払うと、マシュは盾で防ぐも吹き飛ばされる。
「マシュ!」
「マスターは下がっていてください…!」
立香は駆け寄ろうとしたがマシュは下がらせる。相手の攻撃リーチが広すぎるのだ。
すかさずアーサーが剣を携えてアステリオスに近づくと、剣による攻撃を足の関節に叩き付けていく。エクスカリバーによる攻撃にはアステリオスもかなり効いているようで、呻いてアーサーを弾き飛ばす。
「エミヤ!」
「…今度はまた少し遅かったな、マスター」
「仕方ないだろ。敵はアステリオス、ミノタウロスだ。押し切れ」
「承知した」
エミヤは唯斗のそばに立ったまま、弓に剣を装填して次々と放ち始めた。その間にアーサーは体勢を立て直す。
立香も遠距離攻撃に切り替え、トリスタンを召喚した。
「…迷宮の怪物…悲しい怪物よ……」
「トリスタン、いきなりでごめん」
「いえ、ようやく出番となり光栄です。異世界の王もいらっしゃる」
「この世界のトリスタン卿、フォローは頼んだよ」
恭しく一礼したトリスタンは、竪琴を奏でる。その悲しく美しい音は鋭い鎌鼬となってアステリオスを切り裂き、エミヤの剣が突き刺さり、攻撃の合間にアーサーの剣とマシュの盾が打撃となって襲いかかる。
「…こりゃ、あたしの出番はなさそうだ」
ドレイクはカルデアから次々に召喚されるサーヴァントたちの攻撃に、銃を下ろす。この混戦では発砲する方が危ないほどだ。
「アーサー王に円卓のトリスタンが揃って古代ギリシアの怪物と戦うとは…突拍子もなさ過ぎて、もはや信じてもらえるかすら怪しいくらいだね」
「俺もたまに疑うよ」
ドレイクの言葉に唯斗も苦笑する。目の前で起きる戦闘が信じられないことは、これまでの特異点でもよくあった。そもそも、フランスでジャンヌとマリーが並んでいた時点でもう信じがたいほどだった。