封鎖終局四海オケアノスI−12


サーヴァント四騎による攻撃を前に、さすがのアステリオスも膝をつく。あと一息、というところで、突然、凜とした声が響いた。


「お待ちなさい」


その声にアステリオスの動きが止まり、全員がその背後に現れた少女に視線を向ける。


「分かった、分かったわよ!私がついて行けばいいんでしょ!?煮るなり焼くなり好きにしなさい」


現れたのは、アメジスト色の髪をツインテールにして流した美しい少女だった。その姿に立香とマシュが驚いている。


「あ、あの、ひとつよろしいでしょうか」

「なに?ダサい大盾女。さっさと行きましょうよ、あいつのところへ」

「ダサっ…!?」

「こらガキンチョ。助けられる身分で、そう悪口を言うもんじゃないよ」

「はあ?育ちきった女はお呼びじゃないんですけど?」

「……ほう、あんた、船首に備えた女神像の代役でもしたいのかい?」


少女の言葉に衝撃を受けたマシュに代わって、ドレイクが窘めるも少女はツンとした態度を崩さない。
そのドレイクの言葉に、少女は眉に皺を寄せる。


「女神?よく分からないけど…私は女神エウリュアレよ?なに、そんなことも知らないで追いかけ回してたの?」

「エウリュアレ…!?また女神がサーヴァントとして召喚されてんのか!?」


女神エウリュアレ、ローマに召喚されていたステンノの妹だ。
本来はあり得ない神霊の召喚が実現している形である。格落ちしているのだろうが、それでも神霊であることは確かだ。


「本来戦闘力がない女神をなぜ抑止は召喚したんだ…?」

「あら?あなた…それにそこのあなたも、人間じゃない。しかもあれのマスター?でもなんでこんなところへ…?」


エウリュアレはようやく認識の相違に気づいたらしい。
気を取り直して、こちらの説明をすることになった。戦闘の終わりを察して、エミヤとトリスタンはカルデアに戻り、アーサーも戦闘態勢をやめる。

そうしてカルデアと特異点のことを説明すると、聡明なエウリュアレはやっと事態を理解した。


「なによそれ!紛らわしいのよ、あなたたち!」

「そ、それはこちらの台詞です!結界が張られて閉じ込められてしまえば、敵だと思うのは当然でしょう!?」

「ぐ…っ」

「あぁアステリオス、動かなくていいのよ。あなた頑丈なんだから、じっとしていれば死なないわよ…死なないわよね?」


どうやらアステリオスはエウリュアレを守っていたらしい。唯斗はアステリオスのところまで近づくと、僅かに警戒したアステリオスの傷ついた肌に手を滑らせる。
回復魔術によって回復させると、やたら治りが早い。さすがのギリシア神話の怪物である。


「これなら俺の回復魔術でも十分回復できる。この魔力、外の結界と同じだ。アステリオスが島を守るために展開したのか?」

「ええ、そうよ。あなたたちを閉じ込めたんじゃなく、外から入ってくる敵を防ぐためのもの」

「ですが、解除していただかないと私たちも立ち往生で…」

「仕方ないわね」


マシュが控えめに頼むと、エウリュアレは意外にもすぐに応じた。それにはドレイクも意外そうにした。


「案外すぐ応じるんだね」

「単純な足し引きの問題よ。あなたたちが外に出るには、アステリオスが死ぬか結界を解除するしかないんだから。だったら解除する方がまし…一人になるよりは、遥かにね」


声を固くしたエウリュアレに、ドレイクはこちらに近づいて間近で視線を合わせた。エウリュアレは「なによ」と恐る恐る見返す。


「でもあんたら、結界を張らなきゃいけないほど切羽詰まってたんだろ?」

「あんたたちには関係ないでしょ」

「ある!あたしはね、面白いものが好きなんだよ」

「…は?」

「世界一周とか、冒険とか、地下迷宮とか、怪物とか。世の中には面白いものばっかりだ!面白いものは金目になる。そしてあんたらからは金目の匂いがする。だからうちの船に回収する」

「ちょ、何を勝手に決めてるのよ!船に乗る!?ふざけないで!私はこいつを置いていかないって決めてるの!」

「そっちこそ何言ってんだい。連れて行くのはそっちのアステリオスもだよ。根性があって体力があって、おまけによく見りゃいい男だ!」


ドレイクの提案にアステリオスも目を丸くする。とりあえず膝の怪我は治したため、自力で歩けるだろう。


「よし、足は治した。あとは船で航海中だな。サーヴァントとして戦闘力がない女神を追いかけるなんて、ろくな目的じゃない。カルデアとしても、エウリュアレとアステリオスを同行させることがリスクヘッジになると思うけど、どうだ、立香」

「うん、ドレイクがいいなら一緒に行こう」


エウリュアレを狙う者たちの意図は理解できないが、この状況では決して良い方向にはいかないだろう。立香は単純に心配しているだけだろうが、合流に応じた。


「…あなたたちが構わないというのなら。アステリオス、あなた、どうする?」

「…いく。お前が、いくなら、ついていく。ひとりは、さびしい」

「そう…なら、いいわよ。船に乗ってあげる」


こうして、ドレイクの海賊船には女神エウリュアレと怪物アステリオスが同行することになった。まさかの展開だが、行きずりの展開にしては良いものとなっているのではないだろうか。


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