封鎖終局四海オケアノスI−13
エウリュアレ、アステリオスを連れて出港した船は、順調に穏やかな海を進んでいく。
唯斗によるアステリオスの回復も進み、あらかた傷も塞がっている。
次の島に着く頃には万全な状態になっているだろう、と思っていたときだった。
「姐御!前方に船を一隻発見!例の旗でさぁ!!」
「旗…はっ、ドクター!」
マシュは思い出したように通信を開いた。先ほどの島に着く直前、見覚えのない海賊旗をカルデアに照会依頼していたのだ。
『マシュ!?良かった、やっと通じたか!一体そっちで何が起きている!?』
「すみませんドクター、詳しくは後にしてください。それよりも、先ほどの旗について教えてもらえますか」
『あぁ、先ほどの旗は、恐らく史上最大の知名度を誇る海賊の旗だ!』
「……黒髭、エドワード・ティーチか?」
『その通り!気をつけるんだ!』
「ドクター…残念ですが手遅れです…」
すでに船は相手の船と会敵距離となっている。あの旗は黒髭、エドワード・ティーチの海賊旗だ。18世紀初頭に活躍した海賊で、米国東海岸からカリブ海にかけて略奪を繰り返した。
元はイングランドの私掠船だったが、18世紀初めに勃発したスペイン継承戦争によってイングランドの王朝はステュアート朝からハノーヴァー朝に交代することになり、その際に私掠船は海賊に成り下がってイングランドをも略奪対象に含めるようになる。
「あー!あいつ、あいつだ!あたしの船を追い回してた海賊!」
「100年後の海賊だから、あれはサーヴァントだな」
唯斗はアーサーとともに肉眼で見える距離になった船、アン女王の復讐号を注視する。ドレイクを追いかけていたというからには、敵意があると思った方がいい。
甲板に仁王立ちする髭の男は、右手の中指に厳めしい鉤爪をつけ、大きく前が開いたコートから胸毛が生えた体を晒している。
そして、ドレイクは甲板にいるひげ面の男に大声を張り上げる。
「おい、聞いてんのかそこの髭!」
「はぁ?BBAの声など、一向に聞こえませぬが?」
「…………は?お前、今、何、言った?」
ドスの利いた声でドレイクは聞き返す。船員たちの顔が青ざめた。しかし黒髭はまったく意に返さない。
「だーかーらー!BBAはお呼びじゃないんですぅ!何その無駄乳、ふざけてるの?まあ傷はいいよ?いいよね刀傷。そういう属性はあり。でもね、ちょっと年齢がね、困るよね。せめて半分くらいなら、拙者許容範囲でござる。ドゥルフフフ!」
「………、」
あのドレイクをして精神的に黙らせる気持ちの悪さ。波の音以外の音が消えて沈黙が落ちる。それを見て、エウリュアレはため息をつく。
「だめね、凍ってるわ。無理もないわね、私も最初に遭遇したとき、こうなったもの」
すると、エウリュアレを見た黒髭は急にテンションを上げた。
「んっほおおおおおおおお!!やっぱりいたじゃないですか、エウリュアレちゃん!ああ、やっぱり可愛い!ペロペロしたい!されたい!」
男の自分ですら鳥肌が立つ気持ちの悪さだ。唯斗は回復魔術を使っていたアステリオスを促す。
「エウリュアレを隠せ、アステリオス」
「う……」
アステリオスはのっそりと立ち上がってエウリュアレを隠す。さらにその前に唯斗も立った。
一応、アステリオスもエウリュアレも立香が仮契約をしているが、立香が黒髭の気持ち悪さに固まっているため唯斗が指示する。
「あ?おい邪魔だぞデカ物!あとイケメンは帰れ!海に帰れ!イケメンを生け贄にエウリュアレ氏を出せよー!!」
「言われてるぞアーサー」
「君のことじゃないかな」
「二人まとめてだイケメンこの野郎!敵だ!我々の敵でござる!!」
ようやく立香も覚醒し、マシュを隠すように立つ。気持ちの悪い黒髭の視界にすら映したくない気持ちはよく分かる。
「お前ら撃てー!!ありったけの大砲をぶち込んでやりな!!」
ついにドレイクは攻撃を指示した。話す方が精神ダメージがこちらに大きい。もう戦闘になってしまった方がいいだろう。
しかし、こちらの大砲はすべて弾かれる。やたら頑丈な船体だった。
「っ、あの船、宝具だな…!?」
「そのようだね。甲板に敵が乗り込んできた、ソフト面で相手の戦力をそぎ落とすしかないね」
「…混戦してるな。いっそ、ランサーで相手を全員海に突き落とすか」
「だめだからね唯斗!峰打ちして黒髭の船に突き返す!」
例によって立香は殺さない方針を貫く。唯斗は悪態をつきたくなるも、口論している場合ではなかった。
「じり貧だっつってんだろが!くそ、つかアステリオスを下がらせろ、まだ戦わせるには回復が足りてない!」
「っ、アステリオス!下がってエウリュアレを守るんだ!」
立香の指示を聞き、アステリオスは渋々下がりエウリュアレを守るように立つ。
その前で立香とマシュ、唯斗とアーサーで突入してくる相手の船員を迎え撃った。こちらの船員もあちこちで戦っているため、下手に大仰な攻撃をするわけにはいかなかった。
そこに、黒髭が呼びかけてくる。
「おーいBBA!おとなしく聖杯を渡せば下がってやるでござるぞー!」
「聖杯のことを知っているのですか…!」
驚くマシュをよそに、黒髭は自身の船から男を差し向けた。その大柄な男は、少し前に会敵した相手だ。
「っくそ、立香、エイリークが来る!」
「分かった、ランサー!」
「はいよ、お呼びかいマスター」
立香はすぐにランサー・クーフーリンを呼んだ。ランサーとマシュで攻防一体の攻撃を行うようだ。とても合理的な判断だと思う。
唯斗とアーサーはエウリュアレとアステリオスのいる後方から離れるわけにはいかず、襲いかかる敵をアーサーが蹴散らしつつ、唯斗はドレイクの状況が悪くなっていないか確かめ、アステリオスが出ないよう見張り、立香がフォローを必要としているか注視し、相手の出方も窺うという状況になった。
極めて面倒な状況だ。