封鎖終局四海オケアノスI−14


すると突然、ぞわっとした敵意を感じて、慌てて振り返った。
そこには、アステリオスたちに近寄る緑の服を身に纏った男がいた。黒い槍を構え、茶髪を後ろでくくった精悍な男だ。服の意匠は古代ギリシアのものである。
後方には味方はいない。あの男はどう考えてもサーヴァントだろう。すぐに唯斗は、満を持して召喚する。


「ディルムッド!!」

「ディルムッド、ここに。敵は……なんと」


甲板に現れたディルムッドは、唯斗の視線の先にいる男に驚いたようにした。こちらが気づいたことに気づいたサーヴァントは、ひょいっと方眉を上げる。


「これは、ケルトの高名な槍兵じゃないか」

「…ディルムッド、あの槍は、まさか、デュランダルか」

「恐らく。つまりあの男は…」

「お、嬉しいねぇ。お気づきの通り、おじさんこう見えてトロイアの英雄なんて呼ばれてるんだよね」

「……ヘクトール…!」


古代ギリシアの神が介入した最大の戦争、トロイア戦争でポリスを防衛しきった大英雄ヘクトールだ。その槍であるデュランダルはとてつもない力を持つ大変な宝具である。


「召喚して早々に悪いが、ディルムッド、頼んだ」

「はい。アーサー王の助けがなくとも、止めて見せます」


アーサーは甲板で相手から放たれる銃弾、恐らく黒髭の船に乗っているアン・ボニーとメアリー・リードの攻撃を弾きながら掃討を行っている。立香たちはまだエイリークと戦闘中だ。混戦状態の甲板では、セイバーのリーチで戦ってもらう方がリスクが低い。


「うーん、マスターを手っ取り早く殺せばいいと思ったんだけど…仕方ないか」

「そうはさせません、ギリシアの英雄よ」


ディルムッドは両手に槍を出現させると、低く体の重心を落としてヘクトールと対峙する。
そして、目にも止まらぬ速さでヘクトールとディルムッドの槍が衝突した。一際大きい音が響き、火花が散る。あまりの衝撃に、唯斗はよろめいた。
ケルトの槍兵とギリシアの槍兵の正面衝突だ。こんな形で見たくなかった。

激しく衝突する二人からアステリオスとエウリュアレも離れる。
一方、立香たちはエイリークを倒したらしく、通信から完全な消滅を確認する。ドレイクによって二つの船を固定していたロープも切られ、いったん離脱と撤退を始めようとしていた。

しかし突然、船底から爆発音が響き、周囲の海が泡立って衝撃波が波を立てた。


「な、んだこれ…!?」

「姐御!船底が爆発しました!」


これでは黒髭に追いつかれるどころか船が沈む。それだけはなんとしても防がなければならない。


「あちゃー。これは撤退する流れか」


ヘクトールはディルムッドとの打ち合いを止めると、素早く黒髭の船に戻った。ディルムッドは唐突に戦いが終わり、息を切らしながら戻ったヘクトールを睨み付ける。


「…彼は、本気ではありませんでした」

「あいつが本気出したら船が真っ二つになるだろ。助かったディルムッド、多分、また頼む」

「……お任せを。このディルムッド、必ずや彼を打ち倒します」

「力むなよ〜、ディルムッド〜!」


そんなディルムッドに遠くから声をかけてきたのはランサーだ。ディルムッドからすれば先輩にあたるだろうか。ランサーは手をひらひら振ってカルデアに戻った。すでに戦闘は終わっているが、船は傾き始めている。


「ディルムッドもいったん戻っていいぞ。こっちはこの船の維持に集中する」

「はい。ご武運を」


ディルムッドも戻ると、あとはこの船をどう立て直すか、ということになる。
ドレイクは自分が船底に行こうとしていたが、そこで、アステリオスが突如として海に飛び込んだ。


「アステリオス!?」


エウリュアレが欄干に身を乗り出して海を覗く。唯斗もその隣に駆け寄って海面を見ると、なんとアステリオスが船を下から支えて泳ぎ始めたのが見えた。
とんでもない馬鹿力だ。


「あいつ…!」


エウリュアレは欄干を掴む手に力を込めてアステリオスを見つめる。


「…俺が必ず回復させる。あんな傷だらけのヤツに任せるかしかない状況は、悔しいけど」

「……次の島まで持てばね」

「必ずあいつは俺たちを次の島まで運んでくれる。あんたが一番そう信じてるだろ」


エウリュアレは唯斗を見上げて一瞬睨むが、すぐに表情を緩めて海に戻す。


「…こんなときだけ怪物みたいに振る舞っちゃって。怒らないといけないわね」

「そうだな、それはあんたの仕事だな」


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