封鎖終局四海オケアノスII−1


なんとか次の島にたどり着いたゴールデン・ハインド号だったが、船体はボロボロでとてもじゃないが航海に出られるような状態ではなかった。
アステリオスも傷が開いており、この島に拘束されることになる。

そこで船体修繕の素材を集めるため森に入り、唯斗はアステリオスに回復魔術を使いながら歩くことにした。それでもなおアステリオスはエウリュアレを肩に乗せて歩いているのだから、英霊としての基本数値が非常に高いことが窺える。

そうして進むうちに、この島にはワイバーンが生息していることが分かった。その鱗をアステリオスが怪力で剥がすことで、これを船体修繕に使用することになり、30匹ほどのハンティングが始まった。
それなら比較的早くにこの島を出られるだろう、という予測の元、ロマニの観測に従って森の中でワイバーンを探して歩いていたところ、突然一同とは違う声が響いてきた。

助けをも求める声に急いで駆けつけ、そこにいたワイバーンを倒したものの、他にはなんの姿はない。


『その近くに微弱な魔力反応があるんだけど…』

「特には……」


周囲を見渡していると、マシュの足下から変な鳴き声がした。
全員の視線を受けた先にあったのは、熊の小さなぬいぐるみだった。マシュが拾い上げると、それはぬいぐるみを模した使い魔のようで、マシュ、ドレイク、エウリュアレを見つめる。その視線に良くないものを感じたのか、突然、アステリオスが「わっ!」と声を出した。


「うおっ!?いきなり何しやがんだてめぇ!!……あ」


わりと低めの男の声で柄も悪く言ったことで、ぬいぐるみがいやらしい視線を向けていたことを理解し、無言でマシュは盾を構えてぬいぐるみを地面に戻す。


「すみません危害を加える気は毛頭ないんです許してください」


いきなり下手に出たぬいぐるみを見て、唯斗は正体が分からずアーサーに問いかける。


「あれ、なんだか分かるか?」

「さあ…あんな珍妙なものは思い当たる節はないな…」

「あーーー!!!」


そこへ、女性の声が響いた。森をかき分けて出てきたのは、上体のほとんどを晒している豊満なバストの女性だった。それを見て熊のぬいぐるみは途端に焦り出す。


「待て、こいつらは敵じゃな…ぷぎゅる?!」

「また浮気したのダーリン!?私と!言うものが!ありながら!」

「え、この状況で真っ先に殴られるの俺なの!?」


新たに現れた女性は魔力量からしてサーヴァントだ。だが、こちらへの敵意などはなく、ただぬいぐるみを痛めつけている。一体なんの茶番だこれは、と思っていると、堪らずマシュが声をかけた。


「あ、あの…」

「なに!?男女の問題に口を挟まないで!民事の事案よ、民事の!」


騒いでいる女性の背中にある弓矢は、その意匠から古代ギリシアのものだろうとは推測できるものの、ギリシア神話は登場人物が多すぎて誰かまでは分からない。
他のサーヴァントも同様で、マシュはまず、二人に状況を説明するところから始めた。
さすがに時代の修正という目的を明かすと、二人は騒ぐのをやめて納得したように聞いてくれた。


「なるほどねぇ、大まかな事情は分かったよ」

「できれば協力していただきたいのですが…」

「だってダーリン、どうする?」

「どうするも何も、人類史が滅ぶ時点で協力する以外の選択肢があるか、馬鹿!」

「馬鹿じゃないもん!女神だもん!」

「……女神?」


唯斗は女性の言葉に動きを止めた。また神霊だ。それも、エウリュアレのような格落ちによって脆弱な存在となっているものではなない。神格を落としてもなお、しっかりとサーヴァントとしての力を感じさせているのだから、本来の神格は極めて高位のものだということになる。
その上、この弓矢の意匠だ。古代ギリシア、女神、弓矢。サーヴァントに格落ちしてもなおその力の強さを感じさせる高位。


「あ、あんたたち、まさか…」

「お、俺たちの正体に気づいたかイケメン。可愛いサーヴァントを侍らせられなくて残念だったな」

「……、アーサー、俺、そろそろショックが重なって心が折れそう……」


大海賊である黒髭がド変態で、トロイアの英雄は敵で、その上このとんでもない神がこの有様である。アーサーも唯斗の言葉で相手の正体を察したのか、頭を撫でてくれた。


「唯斗、真名が分かったの?」


立香たちはまだ分かっていないが、それが普通だろう。さすがに持っている弓矢の意匠だけで時代とレベルを特定するのは、召喚術に長けた家柄でも難しいことだった。彼らの言動のヒントがなければ無理だった。


「…アルテミス、オリオン」

「せいか〜い!!」

「はぁ!?」

『なんだって?!』


驚愕する立香たちをよそに、アルテミスはオリオンを抱き締めてにっこりと笑った。


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