封鎖終局四海オケアノスII−3


メアリーとアンは光とともに消失し、残された黒髭のところにドレイクも向かって立香と総攻撃を仕掛ける。
サーヴァントが二騎消えたことでさらにアン女王の復讐号の力は乏しくなっていく。煙を上げて、喫水線も下がっていた。

いよいよ大詰め、そんなときだった。


(マスター!ヘクトールが霊体化した!)

(はぁ!?)


慌てて視線をアーサーたちに戻すと、船首でアーサーとディルムッドが周囲に目を光らせていた。ヘクトールの姿はない。
いくら霊体化しても海面を歩けるわけではない。船にしか逃げ場はないのだ。黒髭に助太刀するのかと思えばそんなこともなく、立香たちは黒髭を完全に追い詰める。
唯斗はアーサーたちと合流しようと、二つの船が接触している部分へと走る。その前方では黒髭に最後のドレイクの銃弾がたたき込まれた。

やがて黒髭もドレイクの銃とランサーの槍、マシュの盾によって膝を着いた。


「ぐっ…まだ、まだ…拙者まだ、本気出してない、ですし…!」

「致命傷受けて喋れるだけ、大したモンだよあんた」


呆れるドレイクの前で出血しながら呻く黒髭。
ヘクトールが消えたことを立香たちに報告しようと、ゴールデン・ハインド号の船首からアン女王の復讐号の甲板にいる立香に声をかけようとしたときだった。

突然、黒髭の背後にヘクトールが出現し、その槍で黒髭の体を貫いた。


「っ!!」

「いやあ…やっと隙ができたよな、船長。まったく、油断ぶっこいてるフリして、どこだって用心深く銃を握りしめているんだからねぇ」

「…この状況で裏切るとは、アホなのか、ヘクトール」


低い黒髭の声には、先ほどまでのおちゃらけた様子はまったくなく、海を制した男の貫禄だけがあった。
槍を黒髭から強引に引き抜いたヘクトールは、人好きのする笑みを絶やさない。

アーサーとディルムッドも、立香たちのところに並び立ってヘクトールに剣と槍を向ける。
もう黒髭は消滅するため、この船も消えるだろう。一人残されたヘクトールはどこへ行くつもりなのか。
そもそも、エイリークやメアリーたちは黒髭のサーヴァントのようだったが、ヘクトールは黒髭のサーヴァントではないということか。だとすれば、ヘクトールは一体、何者なのか。


「いや何、オジサンもそれなりに勝算があってやっていることでね。それじゃ船長、あんたの聖杯もいただこうか」

「舐めるんじゃ、ねぇ…!」

「残念、外れ」


黒髭は発砲して抵抗するが、ヘクトールは銃弾を避けるという離れ業で黒髭の体に空いた風穴から聖杯を奪った。


「ぬか、った…!」

「あとはフランシス・ドレイク、あんただけだな。まったく、馬鹿に聖杯を渡せばそれだけで時代が狂うって話だったのに、まさかそれを食い止めるだけの航海者が現れるなんて、ほんと、人類の航海図ってのは綱渡りだよ」

「マシュ!ランサー!」


立香はすぐに指示を出す。マシュとランサーは臨戦態勢でヘクトールに向かうが、再びヘクトールは霊体化したのか姿を消した。
ふと、唯斗は彼らがもともとエウリュアレを目的としていたことを思い出す。

直後、ゴールデン・ハインド号の甲板にヘクトールが現れた。振り返ると、ニヤリとしてエウリュアレに近づくヘクトールが見える。


「っ、くそ、」


唯斗は咄嗟にヘクトールの正面に結界を展開する。すぐ破られるだろうが、その隙にアステリオスはエウリュアレを庇う位置に立てた。
唯斗は足に強化をかけてアステリオスの前に出ると、指先をヘクトールに向けた。もうすぐにアーサーたちが到着するはずだ。

しかし、ヘクトールの方が上手だった。

あえて結界を破らなかったヘクトールは、瞬間的に回り込んでエウリュアレを抱き上げると、さらに唯斗まで拘束して抱き上げる。


「なっ…!?」

「離しなさい!!」

「これぞまさにトロイの木馬ってやつかな」

「はな、せええええ!!」

「マスター!!!」


アステリオスはヘクトールに切りつけるが、ヘクトールは二人を抱えたまま飛び退る。大仰なアステリオスの動きは、危うくこちらまで巻き込まれそうだ。
ヘクトールに腰を片腕で持ち上げるように抱えられ、頭に血が上る。抵抗しようにも、エウリュアレが反対側の腕に抱えられ、下手な抵抗はできない。
向こうの船からアーサーとディルムッドが到着したが、アーサーたちもやはり手が出せない。

どうやらヘクトールは唯斗を盾代わりに使う気らしい。攻撃を仕掛けるアステリオスに向けて唯斗を盾のように突き出し、慌ててディルムッドとアーサーがアステリオスの攻撃を防ぐ。


「…くっ、まぁ、これで目的は果たした」


ヘクトールは攻撃を畳みかけられる前に離脱し、船から飛び降りる。
内臓が置いて行かれる感覚にヒヤリとするが、ヘクトールはいつの間にか用意していた小舟に乗り移っていた。
素早く帆が張られ、船は進み始める。異様な速さは、恐らくヘクトールの海を生きた伝説の力もあって、魔力による強化もかけられていた。


(マスター!!)

(アーサー、最悪なんとかなる。追いつきそうになったら言ってくれ、離脱する)

(…分かった)


テレパシーでアーサーに伝え、抵抗をやめる。急速にゴールデン・ハインド号から離れていくのを見ながら、あのヘクトールを一人で相手にすることに覚悟を決めた。


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