特異点F: 炎上汚染都市冬木−4
「いい機会だから一度だけ言うわ。よく聞きなさい」
立香にレクチャーする中で、いよいよこの特異点の話に至ったらしい。調査員となった唯斗たちにも共有すべきだと判断したのか、重要な話をするとのことだ。
そうして語られたのは、過去の過ぎ去った歴史における地球上の情報を観測する「事象記録電脳魔・ラプラス」が、2004年に記録にない聖杯戦争が起きていたことを観測していたという事実だった。それが記録に残るほど正式なものであれば、恐らく父が参加していたはず。父は聖杯戦争に関わることができなかったから、カルデアでのフェイトの開発に携わったのだ。
この聖杯戦争のシステムを転用したのがカルデアの召喚システム・フェイトであり、その技術を盗み出した者の息子である唯斗にはきつい視線が一瞬だけ向けられた。しかしオルガマリーはすぐ目をそらして話を続ける。
このフェイトによって召喚された英霊は3騎。第一号と呼ばれる英霊は前所長・マリスビリーのときに呼び出された者であり、詳細は不明。そして第二号はマシュと融合した英霊であり、第三号が技術部門に居座っているレオナルド・ダ・ヴィンチである。
ダ・ヴィンチは男性だが、モナ・リザが好きすぎてモナ・リザになってしまい、美しい女性の姿で現界した。唯斗も何度か見かけたことがあるが、確かに絶世の美女だった。中身は狂人だったが。
唯斗が知っているのはダ・ヴィンチだけで、第二号と呼ばれる英霊は誰か不明だ。しかし先ほどの唯斗の見立てが正しければ、恐らく円卓の騎士だろう。さすがにアーサー王本体とは考えにくい。
「ところでマシュ、あなた宝具が使えない?」
すると、オルガマリーは聖杯戦争の話をいったん終えて、デミ・サーヴァントの話になったため、戦闘中に気になっていたらしいことをマシュに尋ねた。それは唯斗も気になっていたことだ。どうにも動きに迷いがあった。
「…はい。実は、融合したサーヴァントの真名もこの武器の由来も分からず……解析ができるようになれば、自ずと分かってくることもあると思います」
「そうね…マスターが一人前になれば契約サーヴァントの解析ができるようになります。まぁ、あなたには無理でしょうけど。次は雨宮のような一流のマスターをシフトさせます」
「…え、俺?予備員だろ」
「この特異点で実際に活動したという実績があれば彼らももう文句は言わないでしょう。まぁ、国連や魔術協会から反発があれば拒否できないかもしれませんが」
「…どっちでもいいけど、帰国便の手配くらいしろよ。俺は出さないからな」
「あら、けち臭いのね」
「おかげさまで一人暮らしだからな」
そんな話をしていると、再び敵がやってくる。わらわらと飽きもせず唯斗たちを襲ってくるのだ。それをいなしていくが、やはりマシュは全力を出し切れていない。唯斗のフォローはそれでもなお不要だろうが、この先そうはいかないかもしれなかった。
やがて、進むうちにオルガマリーは特異点の状況を整理してぶつぶつと独り言を言い始めた。頭の中でここまでの情報を整理しているのだ。いろいろと問題だらけで頼れる人物ではないが、その優秀さは本物だ。
ロマニはその間に休むことを提案したが、立香たちには休ませて唯斗は辺りの探索を続けることにした。もちろん、立香は「一緒に休んでおこうよ」と言ったが、唯斗は「誰かと一緒にいるの、基本嫌だから」とだけ返して瓦礫の合間を歩いている。諦めるようにロマニが言っていたため、立香も深追いはしてこないだろう。
なるべく一人でいたい唯斗は、誰かと時間を共にすることを避ける。ずっと一人でいたため、いざ誰かと一緒になるとどうしたらいいか分からず、それが嫌で一人になるのだ。
とはいえ、ここではそうも言っていられないようだ。嫌な気配を感じて、唯斗はすぐに立香たちのところへ戻る。
そこには、真っ黒な影が3人に迫っていた。