封鎖終局四海オケアノスII−6


甲板に降り立つと、ほぼ同時にヘクトールは撤退していった。代わりに降ってきたのは、巨大な岩の塊。
すぐにアステリオスが受け止めて、海に放り投げた。


「アステリオス!」

「えう、りゅあれ…!」


パッと顔を輝かせたアステリオスに、エウリュアレは駆け寄る。
一方、前方に見えるアルゴー号に、オリオンたちも相手の正体に気づいたようだ。


「立香!」

「唯斗!良かった、無事!?」


唯斗とアーサーも合流し、マリーはいったんカルデアに戻る。
カルデアで唯斗のバイタルはずっと観測されていたであろうことから、立香たちは唯斗の無事は分かっていたはずだ。
さほど心配はしていなかっただろうが、それでも安心したようにしてくれていた。


「相手の戦力をヘクトールから聞いた。アルゴー号船長のイアソン、その妻であるコルキスの魔女メディア、そして最強の英雄、ヘラクレス。加えてトロイアの英雄ヘクトールもいる。この戦力での全面衝突は無理だ」

『ヘラクレスがいるのか、やはり…僕も唯斗君に同意する。撤退しよう』

「そうだ、勝てないとも!君たち二流三流のサーヴァントではね」


そこに、そんな軽薄な声が響いてきた。ゴールデン・ハインド号に併走するアルゴー号から、イアソンらしき金髪の男が呼びかけているのだ。
後ろに控えている大男はヘラクレスだろう。女性はメディアで、隣にいるのはヘクトールだ。


「さて君たち!そのアーチャーを渡せ。そうすればヘラクレスをけしかけることだけは止めておいてやってもいい。どうかな、そこのマスターらしき人間」


イアソンに問われた立香は毅然と睨み付ける。


「断る!」

「ハッハー!そうかそうか!君は勇気があるな!とても気に入ったよ!まるで英雄みたいだ!……ったく、ゴミ屑風情が生意気な。サーヴァントもろとも、今すぐ消えてくれる?」


イアソンは酷薄な笑みを浮かべると、メディアとヘラクレスをこちらに差し向けた。この距離では逃げられない。
圧倒的に戦力が足りない今、なんとかして彼らを引き離さなければならなかった。

メディアは竜牙兵を大量に生み出して甲板に押し寄せさせる。さらにはヘラクレスまで接近してきていた。


「…アーサー」

「まずいね。陸地ならともかく、船の上では圧倒的に不利だ。一度だけ押し返してから撤退しないと」

「できるか」

「おれ、がやる」


応戦を始めた立香たちの後ろで話していると、突然、アステリオスがそう割り込んできた。後ろで焦っているエウリュアレを振り切って、前へと出て行く。


「アステリオス…お前、ヘラクレスを止めるつもりか」

「だれかが、やらなきゃ。それなら、おれが、いい。だって、たくさんころした。こども、なんにんも、なんにんも…!」


多くの生け贄となった子供たちを殺したアステリオスは、しかとヘラクレスを見据える。立香が召喚したランサーやエリザベートが薙ぎ倒されて甲板に叩き付けられる。ドレイクの銃弾が竜牙兵を倒していくが切りがない。


「…だから、おれが、いい…!おれ、が、たたかう!」

「…アステリオス。私も加勢しよう」


アーサーは剣を構えてアステリオスと並ぶ。ヘラクレスに向かって、二人はそれぞれ瞬間的に接近して斬り掛かった。
アステリオスの重い打撃とアーサーの目にも止まらぬ斬撃に、さすがのヘラクレスもふらついて追いやられていく。ヘラクレスに反撃の隙を与えないようなアーサーの攻撃の速さによって、瞬く間にヘラクレスは膝をつくまでにダメージを負った。
そこに、アステリオスの留めの一撃が入る。

倒した、そう思ったのは一瞬だった。


「おー、頑張るねぇ!そこで君たちにとっておきの情報だ!ヘラクレスはね、死なないんだよ」


イアソンが語るヘラクレスの力。それは、12の試練を乗り越えたヘラクレスは12の命、ここでは蘇生術式を与えられているため、完全に死ぬには12回殺さなければならないというものだった。


「さて、聖杯は手に入った。あとは、エウリュアレと、契約の箱(アーク)

「アーク…?」


イアソンの言葉が引っかかる。深く考えたいところだったが、それは許されず、ヘラクレスが蘇生して再び立ち上がる。アーサーすら、さすがに息を乱していた。
こちらに戻ってきたアーサーは、小声で唯斗に告げた。


「僕がやれてあと5、6回だ。君の残りの2角の令呪で宝具を解放してようやく8回、藤丸君たちだけで3回は無理だろう」

「倒せないだろうな。あいつは。撤退して体勢を立て直して、ヘラクレスと戦わない方法を考えるなりしないと…まずはエウリュアレを…まずいっ、」


ヘラクレスは急に動きを俊敏にすると、エウリュアレに迫った。持っている巨大な剣を振り下ろそうとする先にはエウリュアレがおり、間違いなく、ヘラクレスは殺そうとしていた。


「馬鹿な、やめろヘラクレス!!」


イアソンすら叫んでいる。間に合わない。


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