封鎖終局四海オケアノスII−11


すると、立香が「思いついた」と声を出した。全員の視線を浴びつつも立香は動じず、考えを口にする。


「俺がエウリュアレを担いで契約の箱にヘラクレスを誘導して、みんなでヘラクレスを突き飛ばして契約の箱に触れさせるってのはどうだろう」

「…なるほど、いいね、いいじゃないか!さすがあたしが見込んだ男だ!」


立香が話した作戦は、ヘラクレスの目的であるエウリュアレを使って契約の箱へと誘導し、近づいたところで無理矢理触れさせるということだ。

ドレイクに続いて、ダビデは頷いて同意する。


「うん、妥当な作戦じゃないか。サーヴァントだけでなく立香も命を賭けることになるけど。まあ、人生はそういうものだし。命を賭けるなら大抵は勝ち目が出てくる」


エウリュアレは無茶な作戦に少し呆れつつ、肯定を返した。


「壮大なギャンブルだけどね。失敗すればご破算。後戻りなし。一回こっきり」


アタランテも同意し、ヘラクレス、イアソンともに行動パターンから作戦は固まっていく。
引き離す段階では、島からアーチャーによる攻撃を畳みかければイアソンがヘクトールとメディアを防衛に回す。そしてヘラクレスを島に上陸させる。
ヘラクレスは先の戦いでもエウリュアレを殺そうとしていた。たとえバーサーカーでも、大英雄である以上、世界を滅ぼす行為に本能で抵抗しているのかもしれない。つまり、世界を滅ぼすエウリュアレという存在を抹消しようとするのだ。たとえイアソンに背いてでも。

あとは、島に元からある地下墓地に契約の箱を置き、そこに向かってひたすら立香がエウリュアレを背負って走る。追いかけてくるヘラクレスを躱しながら、契約の箱に接近させ、そして地下通路の後ろからヘラクレスを思いきり突き飛ばす。


「僕も乗った。なに、掛け金は全員平等だ。誰か1人でも生き延びて総取りしてくれればいい」


ダビデの無責任な言葉は、やはり生前のダビデの行動から考えれば妥当ではあった。
オリオンは、前線で体を張るマシュに確認する。


「この作戦で一番体を張るのはマシュちゃんとアーサー王だろ。マシュちゃんが決めることじゃないか、この作戦は」

「…平気です。マスターの立てた作戦を必ず成功させて見せます。ドクター次第ですが」

『危険な作戦だが、今は時間もない、僕も賛成だ』

「…唯斗は?」


最後に立香は唯斗に尋ねた。無言を貫いていたからだ。全員の目がこちらに向けられる。唯斗が何も言わなかったため、アーサーも喋っていない。


「……作戦自体には反対しない。でも、立香が危険すぎる」

「みんな等しく危険だよ」

「死んだら終わりなのは俺たちだけだ。等しくない」

「でも命は等価だ」

「命が等価であることと、優先順位があるのとは違うだろ」


淡々と唯斗が話すのに対して、立香も静かに話す。意見の衝突は何度もあった。でも、これは本当に引き下がれない。あまりにも立香が危険だ。
脳裏に浮かぶ、暗い食堂で息を殺して泣く姿。


「優先順位なんて…誰だって死んでいい人間なんていない」

「っ、でも生きなきゃいけない人間はいるんだ!お前は、生きなきゃいけないんだ!サーヴァントよりも、俺よりも!!」


立香の肩を掴んで声を張り上げた唯斗に、立香もマシュも、サーヴァントたちも驚くのが分かった。そんなことをするタイプの人間ではないからだ。何よりも、唯斗の言葉にも驚いていることだろう。


「……なんで、俺の方が唯斗よりも生きなきゃいけないって言えるんだ」

「そ、れは…」


それを言ってしまえば、立香は唯斗を守ろうとしてしまう。もっと負担をかけてしまう。ただでさえ世界を背負っているのに、最も身近な人間である唯斗まで背負わせてしまうのだ。

肩を掴んでいた手から力が抜ける。

見かねたのか、アーサーが唯斗の手を立香から離して、正面から唯斗と向き直る。


「マスター。落ち着いて。大丈夫、確かにリスクはあるけれど、全員生きて帰れるよ」

「……なんで。なんでそんなことが言えるんだ」

「守るからだよ。僕と君がね」


アーサーはしっかりと唯斗の目を見つめた。その青い瞳に射貫かれて、唯斗は息が詰まる。
森を駆け抜ける風の音が聞こえてきて、そして、唯斗はため息をついた。


「……くそ、覚えてろ立香」

「え、なんで俺!?」

「マシュ、俺とアーサーと3人でヘラクレスから立香を守る。でも、マシュは後衛でなるべく立香に近い距離で、前衛には俺とアーサ−が出る。いいな」

「な、せめて唯斗さんも後ろに、」

「俺はアーサーと戦う。その代わり、絶対に立香とエウリュアレを守れ。そして自分のことも」

「……分かりました」


きっと最初から、立香は全員で助かることしか考えていなかった。唯斗の懸念するリスクは尤もなものだっただろうが、ヘラクレスという存在を前に、そんなことを考える必要などなかったのかもしれない。


「…立香は、強いな」

「?なんか言った?」

「…いや。カルデアに戻ったらまずは歴史の勉強たたき込むところからだなって」

「え、唯斗が教えてくれるの?やった」

「…お前な」


毒気の抜かれる笑顔に一気に脱力する。そんな唯斗の背中を、アーサーは優しく笑ってぽんぽん、と撫でた。


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