封鎖終局四海オケアノスII−14


さらにヘクトールは、最後の力を振り絞ってエウリュアレに槍を投げて突き飛ばして、背後のダビデが携える契約の箱に触れさせようとしたが、エウリュアレは分かっていたようだった。
ヘクトールに向けて、矢を放つ。


「ええ、あなたはそうするでしょうね……女神の視線(アイ・オブ・ザ・エウリュアレ)


その矢は、ディルムッドの槍にすでに貫かれているヘクトールの胸元を直撃した。
それでもなお、ヘクトールは苦しみつつ笑みを浮かべる。


「ぐっ…?!はっ参ったね、オジサンの企み、どこで見抜いた…?」

「見抜いていないわ。ただ、あなたはアステリオスを殺した。それだけで、十分に注意を払う理由になっていただけよ、オジサン」

「…けっ、やっぱり慣れない悪役はするもんじゃねぇな」

「次は期待してるぞ、ヘクトール」


ディルムッドの背後まで近づいて言うと、ヘクトールは苦笑いする。そして、光とともに消えていった。
重みの消えた槍を甲板に立てて、ディルムッドは唯斗を振り返る。


「マスター、ありがとうございます。しかし情けない…令呪を使っていただかなければ、あなたを守れなかったかもしれません」

「何言ってんだ。一緒に戦ってるんだから、援護くらいする。マスターである俺を頼ることは弱さじゃない。少なくとも俺は、常に一緒に戦ってるつもりで、ここに立ってる」

「…なるほど。本当に、私は今回、幸運に恵まれていたようです、マスター。あなたと契約できて良かった」

「俺もだ、フィオナ騎士団の一番槍。また頼む」

「はい」


いったんディルムッドはカルデアに戻る。かなり宝具も魔力も使ったからだ。

さて、いよいよヘクトールもいなくなり、イアソンとメディアだけとなった。立香たちと戦っていたメディアはイアソンの隣に戻り次の指示を窺う。
そこに、ダビデが声をかけた。


「君に、エウリュアレを契約の箱に捧げるなんてことを吹き込んだのは誰だい?」

「貴様たちの知ったことか!」

「いや、知りたいなぁ。だってほら、彼女を捧げていたら世界が終わっていたんだよ?」

「…なんだと……?」


やはりイアソンは知らなかったらしい。愕然とした表情は、他ならぬダビデからもたらされた情報だからだろう。ダビデが懇切丁寧に、エウリュアレを契約の箱に捧げようものなら世界が滅んでいたと告げる。

それを聞いて、震える声でイアソンは隣を見遣り声をかける。


「…メディア?今の話は…嘘だよな?神霊を契約の箱に捧げれば、無敵の力が得られるのだろう?あの御方はそう言って…」

「はい、嘘ではありません。時代が終われば世界が滅ぶ。世界が滅べば敵が存在しなくなる。ほら、無敵でしょう?」

「お、お前、私たちを騙したのか…!?それじゃあ何の意味もない!俺は今度こそ理想の国を作るんだ!誰もが俺を敬い!満ち足りて、争いのない、本当の理想郷を!」


どうやらイアソンを騙していたのはメディアだったようだ。
「二度目のチャンス」だと思っていたイアソンに、メディアは淡々と真実を告げる。


「それは叶わない夢なのです、イアソン様。だってあなたには為し得ない。人々の平和を願う心が本物でも、それを動かす魂が絶望的にねじれている。あなたは、あなたの望む形で夢を叶えてはいけないのです」

「お、お前に何が分かる!鄙びた神殿に引きこもっていただけのお前が!この俺のどこが!どこに王の資格がないというのだ!?この裏切り者が!!」

「残念です。私は召喚されて以来、ずっと本当のことしか言っていませんでした。私は裏切られる前の王女メディア。外に連れ出してくれた人を盲目的に信じる魔女。だから、かの王に選ばれてしまったあなたをこうしてお守りしてきました。すべて真実でした…多少の誤解はあったかもしれませんけど」


しかしメディアはメディアで、イアソンを守ろうとしていたらしい。イアソンが聖杯に飲まれて、理想の国を実現できない自身の罪に向き合うことから。
やたら幼い姿をしていると思っていたが、メディアはどうやらイアソンに裏切られその家族を殺してしまう、その前の姿だったようだ。だからこそ、まるで無邪気な少女のように、残酷なことを行える。


「例えば、今しがた守ると言ったでしょう?どうやって守るかというと…」


そして突然、メディアは聖杯をイアソンの体に突き刺した。強引に体内に聖杯を埋め込まれたイアソンは、苦悶に表情をゆがめる。
抉られた体から血が大量に甲板の板に垂れ流されていく。


「ひっ!ぐ…ッ!何をする、!ひっ、やめろ、からだ、とける…!!」

「聖杯よ。顕現せよ、牢記せよ。これに至るは七十二柱の魔神なり」

「が…ぎいいい…!!」

「さあ序列三十、海魔フォルネウス。その力を持って、あなたの旅を終わらせなさい」


そのメディアの詠唱とともに、イアソンに埋め込まれた聖杯はイアソンの体を触媒に魔神柱を召喚した。
赤いおぞましい瞳が連なる肉の柱がアルゴー号に立ち上がる。

魔神柱、フォルネウスだ。


「な…ッ!!」


ダビデやアタランテは愕然とし、立香とマシュは表情を険しくする。ローマに続いて、やはりこれと戦うことになるらしい。
しかし一同が驚愕に包まれる中、果敢にもドレイクは発砲した。銃弾は魔神柱を直撃する。


「よし当たった!ほらマシュ!こいつをぶっ倒すためにやってきたんだろ!ならシャンと胸を張りな!」


不敵に笑うドレイクは、出会ったときから変わらない。泰然とした態度に、マシュと立香も奮い立つ。


「…いくぞ、アーサー。二度目ましてだな」

「そうだね。次は、確実に仕留めよう」


いよいよ、世界の修復を始める時間だ。そして、最後の戦いである。


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