特異点F: 炎上汚染都市冬木−5


黒い影はどうやらサーヴァントのようだ。漲っている魔力量が違う。

恐らく、2004年の冬木市に生じたこの特異点Fでは聖杯戦争が行われており、その結果が狂ったために特異点となったようだ。


『戦うな!君たちにサーヴァント戦はまだ早い…!』

「そんなこと言っても逃げられないわよ!」


ロマニは通信で逃げるよう言うが、黒い影は逃がしてくれそうにない。ちょうど唯斗が背後をとって挟撃するような形になっている。

すぐさま唯斗はガンドによってサーヴァントに後ろから攻撃を当てた。サーヴァントはよろめいたが、やはりサーヴァントだけあってあまり効いている様子はない。人ではサーヴァントの相手など務まらないため、気休めだ。あくまで唯斗は予備、正規のマスターである立香とマシュが戦いの軸となる。

唯斗が横にそれてマシュに空間を開けてやれば、マシュは思い切り盾で影を殴りつけた。あまりに重い音が周囲に響き渡り、唯斗はぐらりと地面に倒れそうになるサーヴァントに再びガンドを連発して撃ち込む。

怯んだところを、またマシュが攻撃し、さらに盾で何度も殴打して畳みかける。人間だったら粉々に砕けているだろう。


そうして黒い影を倒すことに成功したマシュだったが、さらに2体ものサーヴァントが瓦礫の合間から出現した。


「ッ、2体か…!」


1対1でもマシュはギリギリのようだった。これで2体とは、あまりに分が悪い。慌てて逃げ出したが、マシュは背後から背中を切りつけられた。


「マシュ!」


立香が叫んで、よろめいたマシュを支える。オルガマリーもマシュも、強敵2体を前に竦んでいるようだ。無理もない。1体だけでマシュには限界だったのだ。それは見ていたオルガマリーも理解している。
非常電源で稼働しているカルデアのシステムを使ってこれ以上サーヴァントを召喚することはできないだろうから、唯斗とマシュしか戦闘要員がいない状況は変わらない。ロマニがレイシフトを修復するのにも時間がかかる。このままでは、全滅するかもしれなかった。

予備は予備らしく、こういうときこそ真価を発揮すべきだろう。

唯斗は結界を展開し、それを大量に重ねて2体を閉じ込めた。密閉した空間に押し込められた2体は当然結界を破壊しようとし始める。


「く…っ!」


想像以上の反発に、唯斗は手をかざして魔力を思い切り結界に注いだ。しかし結界そのものは簡単なものであり、どんどん破られていく。


「あなた…!そんな、魔力量にものを言わせて何百枚も結界を重ねても、サーヴァント相手じゃすぐ破られるわよ!」

「あぁ…!だから、その間に逃げろ。レイシフトが修復されるまで隠れるんだ」

「まさか、一人で相手にする気か!?」


立香も驚いているが、背後をなんとか振り返って睨む。


「マシュは確かに本領を発揮できてない。でも、令呪を使えばレイシフトができるようになるまでは持ちこたえられるだろ。今ここで戦ったら全滅だ。まずは逃げて隠れる余裕が必要だ」

「そんな…!」


マシュたちが体勢を立て直すため、僅かにでも時間を稼ぐ。それが唯斗の役割だ。
令呪とはサーヴァントと契約したマスターの右手の甲に現れる呪印のことだ。複雑な紋様を描き、3画からなる。1画あたり1回、計3回サーヴァントに対して強制力のある命令ができる。
令呪によってサーヴァントを縛り、人間の管理下に置くための防衛機構でもある。
また、令呪によって大きく魔力をサーヴァントに送ることができるため、3回あればなんとか窮地を耐え凌ぐことができるはずだ。

反発される感覚が脳を揺らす中、やはり大気中のマナが濃いおかげで、結界は破られるたびに増やしており、なんとか2体を留めている。苛立ったような様子に、間違いなく出てこられたら殺されるだろうと思った。

しかしそのときだった。


「よく耐えたな坊主」

「え……」


突然、ふわりと人影が唯斗の隣に降り立った。そして、唯斗の頭を軽く撫でてから、フードのついたマントをはためかせ、唯斗の前に立ちはだかった。精悍な青い髪の背の高い男だ。


「もう結界解いていいぞ。大丈夫、任せろ」

「…、分かった」


唯斗は結界をすべて消失させる。動揺していた中のサーヴァントに向かって、すかさず男のサーヴァントは自身の周囲にルーン文字を浮かべ、その文字が次々と光線に変化してサーヴァントたちを襲った。今度はやはり効いている。


「貴様、キャスター!なぜ漂流者の肩を持つ!?」

「あん?てめえらよりマシだからに決まってんだろ。それとまぁ、見所のあるガキは嫌いじゃない。そら構えなそこの嬢ちゃん。腕前じゃああんたは負けてねえ」


どうやらこの聖杯戦争に召喚されたキャスタークラスのサーヴァントらしい。マシュに戦闘を指示する。
奮い立ったのか、マシュは盾を構えて唯斗の前に出た。二人は並んでサーヴァントと対峙する。


「指示はそっちの坊主か、なら任せた。俺はキャスターのサーヴァント、故あってやつらとは敵対中でね、敵の敵は味方じゃないが、信用してもらっていい」

「…分かった!やろう、マシュ!」


キャスターに声をかけられた立香も唯斗の隣に立つと、マシュとキャスターに指示を出し始めた。すべてこの特異点に来てから知ったわりには、マシュへの指示は悪くない。


12/460
prev next
back
表紙へ戻る