強さも弱さも−1
第三特異点の修復を終えて、カルデアに戻ってきた頃には、本来の時間軸であれば11月末に差し掛かっていた。
季節はおろか天気すら変わらないカルデアでは、実感を持って時間の流れを感じることはない。そんなカルデアであっても、頼りない船の上とは違う確かな陸地という感覚に、どことなく安堵するものだ。
いつも通り、帰還後に戦力増強のための召喚を行うことになると、普段よりも立香が積極的になっていることが目についた。英霊の召喚に慣れたこと、戦闘にも慣れてきたことが理由にあるだろうが、もう一つは、誰も失いたくないという思いを強めたからだろう。
あのときアステリオスを犠牲にせざるを得なかったことを、立香はかなり気にしているようだ。ロマニたちもそれを分かって、立香の戦力増強を認めている。
最初の3日間だけで、ヘクトール、エウリュアレ、アステリオス、アタランテ、ダビデと第三特異点で縁を結んだサーヴァントたちを召喚してみせた立香は、唯斗も召喚することになった日にはかなり疲れているように見えた。
召喚ルームで、こっそり立香に話しかける。
「お前、大丈夫か?ペース早すぎるんじゃないか」
「大丈夫。次の特異点まで1か月切ってるし」
「…ま、立香にはマシュもロマニもついてるし、俺は何も言わないでおく」
「……ありがとう」
恐らく方々から心配されているのだろう。立香は何も言わなかった唯斗に礼を言った。
「準備できたよ。なんの話してたの?」
召喚の準備を整えたロマニに聞かれ、唯斗が誤魔化して答える。
「記憶を持ってるサーヴァントの話。今のところ、ダビデとエウリュアレだけだな」
「あぁ、そうだね。妥当なところだと思うけど」
今のところ、第三特異点の記憶を持って召喚されたのはエウリュアレとダビデだけだ。サーヴァントの格という点では妥当である。
エウリュアレはアステリオスと再会し、記憶がないながら歓迎されることに困惑していたアステリオスとまた仲良くなっているようだった。もともと相性がいいのだろう。
「なんか、一気に時代が古くなったみたいだ」
立香はこの3日間で召喚した者たちを考え、やたら古代の者が揃っていることに気付く。確かに、古代ギリシアや古代ユダヤのサーヴァントが増えている。
「縁は時代に由来することもあるからね。さて、じゃあ立香君から行こうか」
「はい」
いつも通り、まずは立香から召喚を開始する。
暗い室内にはロマニとダ・ヴィンチ、マシュが控えている。今まで召喚に特段の問題が生じたことはなく、単に早く誰が召喚されるのか見たい、なんていうロマニとダ・ヴィンチの意図を感じる。
そうして、立香が詠唱を終える。輝く魔法陣からは、勢いよく霧が噴きだした。途端に高まる魔力と、絶対的な圧力。普段と異なる様相に、さすがに緊張感が走った。サーヴァントであるマシュとダ・ヴィンチはもちろん、ロマニと唯斗も、いつもと違い威圧感のある霧の中の気配に警戒した。
「…フッ、フハハハハハ!!この
我を呼ぶとは、運を使い果たしたな雑種!!」
「な……はっ?」
唐突に雑種と呼ばれて目をぱちぱちとさせる立香に歩み寄るのは、背の高い金髪の美丈夫。オールバックの金髪に紅の瞳、いかめしい甲冑も黄金で、きつい眦はこちらを睥睨する。
「我が名はギルガメッシュ、ウルクの王にして深淵を覗き見た者!貴様が我を召喚したのではない、我が現界してやったのだ」
「……ギルガメッシュ王………?」
立香以外が愕然とする中、立香は「あ、うん、よろしくお願いします」とあっさり挨拶をした。普通の高校生だった立香には、歴史上の人物というものに対して垣根が低く、それは基本的には良いことなのだが、さすがに唯斗もヒヤリとした。
本来、召喚したサーヴァントが突然術者を襲うことだってある。
ましてや、相手はギルガメッシュ叙事詩に語られる古代オリエント最大の英雄だ。人類史において最古の文明である古代メソポタミアを統一し、都市国家を築いて文明を原始から古代へと進めた大英雄である。その功績に対して、唯一無二の友人・エルキドゥと出会うまでは暴君としても知られた。