強さも弱さも−3
堪らず呼べば、すぐに部屋の外からアーサーとディルムッドが駆けこんできた。中の様子を見てぎょっとしたから、こちらに走ってくる。
「……ほう、また奇妙な」
ギルガメッシュはアーサーとディルムッドが並んでいることをそう評してから、攻撃を開始する。
しかし僅かに早く、アーサーの剣がギルガメッシュに迫った。俊敏に避けようとしたが、その足元には唯斗が「ヴィアン」と小声で呟いて出現させた屋外の氷の塊があった。
たった一瞬の隙だが、それだけあれば唯斗のセイバーとランサーは充分だ。
ぐらついたギルガメッシュの側面を槍が突き、すんでで避けたところでアーサーが切りかかる。瞬時にギルガメッシュの背後から黄金の穴が開いて金の鎖が射出され、アーサーの剣を弾いたが、ギルガメッシュの背後を回ったディルムッドは唯斗が出現させた結界の壁を足場に空中で宙返りしながら槍を頭上よりギルガメッシュに突き刺す。
ギルガメッシュが体を低くしてそれを避けると、唯斗は目くばせをしてディルムッドに攻撃を辞めさせる。アーサーとディルムッドが瞬時に離れると、ちらりと背後を見て、アーチャーのギルガメッシュと立香たちの戦いも、マシュが盾でギルガメッシュを弾いて距離を開けているのを確認した。
「よし…ヴィアン、」
そして再び左手に魔力を籠めて術式を展開すると、二人のギルガメッシュの頭上より、カルデアの給水塔から転移させた冷水が浴びせられた。
いくら温度変化に強いサーヴァントと言えど、ギリギリで凍結を防いでいる南極の流水の冷たさには頭が冷えるだろう。
唯斗はその場を強化した足で離脱しており水はかかっていないが、ロマニは「冷たッ!」と叫んでいた。
室内には沈黙が落ちる。
「……王に冷や水を浴びせるとはなんたる不敬」
水よりも冷たい声で言ったこちらのギルガメッシュだったが、怒気は感じない。
いや、背後でアーチャーの方は怒り心頭といった感じだが、どこかギルガメッシュはアーチャーの方が向ける唯斗への敵意を警戒し始めているように感じる。
「まぁ、余興にしては悪くないものであった。その豪胆さに免じて、当座の間はマスター契約を維持してやろう」
「ハッ、半端者に下るか老い耄れ」
「ほざいておれ若い我よ。貴様こそたかが二体のサーヴァント相手に何をしておるのだ」
どうやらこちらのギルガメッシュはもう戦う気はないらしい。アーサーを見ると、肩を竦めて返される。古代の人間の考えることなど分からない、といったところか。
「雑種、我にその名を名乗る名誉を与えてやろう、特に赦す」
「え…あぁ、雨宮唯斗、カルデアの予備員のマスターだ」
「…ほう。予備員とな。ではあのど素人が正規マスターだと」
「一応。俺だって、ちゃんと魔術師になろうとして学んできたわけじゃない、同じようなもんだ」
「どうでもよい。我はウルクの危機に際してカルデアとやらの状況を確かめるために来たまで。この我を間違っても使役しようなどと思うなよ。凡百の英霊とは格が違う故な」
ウルクの危機、というものが示すものはよく分からない。ギルガメッシュがウルクに壁を築いたのは異民族からの侵略を防ぐためともされているが、そもそも神話の世界の人間だ。ウルクは実在したが、ギルガメッシュがいたかは定かではないため、詳しく分かっていることは決して多くはない。
本人も詳しく話すつもりはないらしく、そもそも唯斗たちに協力しようという気もあまりないらしい。ギルガメッシュがそう言うなら、戦力としては数えない方がいいだろうか、と思っていると、アーサーが口を開く。
「マスター、ギルガメッシュ王は力になってくれないらしいから、別のキャスターを呼んだ方がいいかもしれない。オリエント最大の英雄ともあろう人だけど、どうやら僕たちの特異点を巡る旅にかかずらう余裕もないみたいだ。仕方ないね」
「…抜かせ、異世界の騎士王風情が。そのような些事に我が出るまでもないというだけのこと」