強さも弱さも−6


管制室に入ると、いつもの後方の席にロマニが座っていた。現在、カルデアスタッフたちは次のレイシフト先の決定を急いでいるところだ。


「ロマニ、ちょっといいか」

「おや、唯斗君とディルムッドじゃないか。どうしたんだい?」

「ディルムッドの宝具がどうやらフルで力を発揮してないみたいなんだけど」


ロマニに事情を説明すると、ロマニはディルムッドの槍を見て、じっくり検分する。ディルムッドは2本の槍をロマニに見せ、様子を見守った。


「うん、そうだね。宝具には制限がかかっているような状態になっている」

「それは、宝具そのものの制約か?それとも、ディルムッドの内面の問題か?」


ロマニは唯斗がある程度察していることを理解し、席に戻ってにっこりと頷いた。


「唯斗君の予想通りだよ。ディルムッド自身の問題だ」

「マシュと状況は近いと」

「そういうこと。ただ、特異点Fでキャスターに強引に開放してもらったようなやり方をするわけにもいかない。ディルムッドは英霊の中でも人格が成熟している部類に入るからね。マシュみたいに強引にやって成立するのは、マシュ自身が人格的に成長途中だからだ。もちろん、立香君や唯斗君と同じように、君たちの年代らしくね」


マシュの迷いや恐怖、葛藤は、唯斗たちの年齢に対して相応のものだった。だからキャスターは強引なショック療法のように宝具を解放させた。
ディルムッドはすでに完成された人格で英霊となっているため、そのような生半可な気の迷いを持っていない。そもそも、自身の内面に起因するもの、と聞いて驚いてすらいた。


「で、トリスメギストスを弄ってるのは、ディルムッドの深層心理に入るためか?」

「ははは、さすがだね。そういうこと。以前、サンソンのときに君が報告してくれたろう?」


夢でサンソンの深層心理に入ってしまったことは、すでにロマニには報告してある。マスターとサーヴァントを繋ぐ事象としてはっきり夢の共有が確認されたからでもあり、立香の身にも起こる可能性があるからだ。そして、唯斗もこれから何度か経験する可能性がある。

サンソンはあの夢の後からパフォーマンスが急速に向上しており、深層心理にダイブすることは有用だとロマニは判断しているらしい。


「私の心の中に?」

「そうだよ。プライベートなところを見せるようなやり方で申し訳ない。ただ、唯斗君にもある程度の危険が伴うとはいえ、最も合理的な方法だ」

「……マスター、申し訳ありませんが、やはりこの話はなかったことに。マスターを危険に晒すわけにはいきません」

「問題ない。特異点と違って、戻ろうと思えば戻れる」

「しかし……」

「…それともなんだ?俺のランサーは俺を守り切る自信がないと?」

「……いえ。まさか。私がおそばにいる限り、危険など…しかしですね」


ディルムッドは唯斗に危険が及ぶと聞いてやめようとした。ディルムッドらしいと言えばらしい。もともと、現状でも十分ディルムッドは強いということもある。
だが、ロマニは唯斗が行くことを分かってすでにシミュレーターの特殊運用の準備を始めている。唯斗も引くつもりはなかった。

唯斗はディルムッドの胸板に拳を突きつける。黒いノースリーブのインナー(といってもアウターはないが)越しに体温を感じた。


「いいかディルムッド。これは人理を修復する戦いだ。特異点でも言ったけど、俺は一緒に戦ってるつもりでお前らの後ろにいるんだ。物理的な意味ではなく、俺はお前らの隣に立ってる。これは己の願望のための聖杯戦争じゃない。俺もお前も生半可な戦いじゃ許されない、世界のための戦いなんだ。100%出さなきゃ許さねぇぞ」

「…マスター、覚悟の足りていなかった私をお許しください。子供だと侮っていたわけでは決してありませんが、私などより遥かに、あなたは覚悟を決めておられた。己の恥と情けなさを承知で申し上げましょう。…改めて、ご助力いただけますか」


真摯にこちらを見つめるディルムッドに頷き返す。ディルムッドは唯斗の拳を包むように掴む。


「必ずお守りします」

「期待してるぞ、ディルムッド。ロマニ、準備できたか」

「OKだよ。シミュレーターの応用展開、いつでもいける」

「よし、じゃあ行こう」


ディルムッドと並んでシミュレーターに向かう。サンソンのときとは違い、これから意図的に、ディルムッドの深層心理に飛び込むのだ。


135/460
prev next
back
表紙へ戻る