封鎖終局四海オケアノスII−16
呻くイアソンは、目から血を流しながらメディアを探して手をさ迷わせる。
「め、でぃあ…治してくれ、ぼくのめでぃあ…いたいんだ、いたいんだよぉ…なにをやってるんだ、こののろま…」
「……できません、イアソン。ごめんなさい。私ももう…残念でした、本当ならあなたとともに世界が沈んでいたのに」
「お前、やっぱり…!」
まるでイアソンのことを覚えていないかのように振る舞っていたメディアだったが、英霊としての格を考えればそんなわけがない。メディアは知っていながら、知らない振りをした。
裏切られる前に世界を滅ぼそうという、そんな残酷な考えの根幹には、純粋な愛だけがあった。
イアソンは呪詛とともに消えていき、メディアも呼吸を苦しそうにする。
「…彼からあなたを守りたかったけれど……」
「まずい立香、メディアが消える前に、敵のこと聞くぞ!」
立香は頷くと、マシュに連れられてアルゴー号へと飛ぶ。唯斗も、アーサーが運んでくれた。甲板にはランサーとディルムッド、魔神柱にとどめを刺したドレイクも残っている。
立香は甲板に降り立つなりメディアに尋ねた。
「メディア!黒幕は誰なんだ!?」
「それを口にする自由を私は剥奪されています。魔術師として、私は彼に敗北していますから」
「メディアが魔術師として破れる、って…」
魔術師として人類史トップクラスであるはずのメディアを負かした相手。
メディアは甲板に倒れたまま、儚く笑う。
「ええ。どうか覚悟を決めておきなさい、遠い時代の最新にして最後の魔術師たち。あなたたちでは彼には敵わない。魔術師では、あの方には絶対に及ばないのです。だから…星を集めなさい。いくつもの輝く星を。どんな人間の欲望にも、どんな人々の獣性にも負けない、嵐の中でさえ消えない、空を照らす輝く星を」
そう最後に残して、メディアは消滅した。これで敵性サーヴァントは全員が消失し、聖杯をマシュが回収する。ついに、時代の修正は完了した。
ディルムッドたちカルデアの英霊は戦闘終了によって戻り、後にはこの時代に呼ばれた者たちだけが残る。
アルゴー号が消滅し始めたため、ドレイクとマシュ、立香、唯斗、アーサーはボロボロのゴールデン・ハインド号に戻った。
すでにマストは折れかかり、ロープが垂れて、甲板は陥没している。
ドレイクは残された甲板の床に立つと、凪いだ空を見上げる。
「風が止んだ…ああ、こりゃあ終わりだね。でも、それは破滅じゃない。これはいい終わりだ。あたしたちの海が戻ってくる!」
ドレイクがそう笑うと、船内から出てきた船員たちが騒ぎながら次々と消え始めた。元の時空に戻っていくのだ。
確かに風は止み、波もほとんど収まって、海はまるで巨大な水たまりであるかのようだった。
「やっと帰れる!さあ、行きましょうオリオン!愛の逃避行へ!」
「お前なぁ…まあいいや、疲れた。次は別の姿で会えるといいな」
そういつもの騒がしさとともに、オリオンとアルテミスも光とともに消える。サーヴァントたちの退去も始まったのだ。
「これで私たちの役割もおしまいか。あーあ、なんてひどいお仕事だったの。でも…いつか、あいつともまた会わなきゃね。名前を呼んで、あの恥ずかしい告白をからかってあげなきゃ。そうそう、あなたたちもよくやった方よ。だから、最後の褒美に接吻くらいはしてあげる。跪きなさい」
エウリュアレはそう言うと立香を跪かせる。その額に、そっとキスを落とした。女神のキスに、立香は顔を赤らめる。
一方、唯斗はアーサーが後ろから抱き締めてきたことで動けず、エウリュアレはそんなアーサーを見て呆れる。
「あなたね…まぁいいわ。それではご機嫌よう。次もまた、面白おかしく足掻きなさいな」
そのわりに、最後に微笑んだエウリュアレの表情はとても柔らかで、女神らしいものだった。
エウリュアレが光とともに退去すると、アタランテはほっと息をつく。
「今度は役に立てたようで何よりだ。前回のような倒され方はごめんだからな。しかし私は本領をまだ発揮していない。ぜひまた呼んでくれ。…しかし、これからアルテミス様をどう敬えば…」