封鎖終局四海オケアノスII−17
アタランテはそうぶつぶつと言いながら消失した。特異点での記憶が共有されなければ、あの苦い記憶も忘れられるだろう。
それを見届けて、ダビデはこちらを振り返る。
「や、そろそろお別れだね。エウリュアレのキスを受けられなくて残念だったね、唯斗。僕が代わりにしてあげようか?」
「結構だよキング・ダビデ」
依然として後ろから抱き締めてきたままのアーサーが固い声で拒否した。ダビデは特に気にした様子ではない。
「おや、そうかい。君には聞いていないのだけれど…まあいい。そちらは色々大変そうだけど、くじけずに頑張ってくれ」
「ダビデ、還る前にひとついいか」
唯斗はダビデに気になっていたことを尋ねることにした。恐らくロマニも気になっていることだろう。
「72柱の悪魔はソロモンの伝承だ。父親であるあんたは、そんなものが本当に存在すると思うか」
「うーん…確かにソロモンは僕の息子だけど、召喚術は管轄外だしなぁ」
『頼りないなぁ…』
「そういう君はどうなんだい?」
ダビデは通信越しにロマニに尋ねた。ロマニが言いよどむと、ダ・ヴィンチが割り込んでくる。
『ロマンはソロモンのファンだもんね?』
『ちょ、それ秘密!も〜…そうだよ、その通りだよ!72柱の魔神というのは召喚術の始まりにして頂点だ!それがあんな醜悪な怪物であるはずがない!だってソロモン王だぞ!?あんな怪物を使役したり…人類を…人類を滅ぼすことを企んだりするもんか!』
『だ、そうだよ?ダビデ王はどう思う?ソロモンはそういうことしそう?』
なぜか急に怒り出すロマニに、少し呆れたようにしつつダ・ヴィンチが改めてダビデに問う。ダビデはそれに対してあっけらかんと答えた。
「ソロモンはそういうことするよ?あいつ、基本的に残酷で悪趣味でろくでなしだから」
『そんな…』
「ははは、ごめんごめん。僕はソロモンとあまり関わりがなかったからさ。育児は興味なかったから。でもまぁ確かに…あいつは愚者ではあったけど、正直者だった。人類史を滅ぼすなんてこと、そうだな…隠れて交際していた十人の愛人みんなに裏切られるくらいしないと考えないんじゃないかな?」
「それはそれで最悪な人物像ですね」
『そんな酷いのかい!?ソロモンのイメージって!』
呆れるマシュにロマニも悲痛な声を出すが、ダビデは意に介さない。
「じゃ、僕はここで。後は君たちに任せるけど、何かあったらまた呼んでくれ」
ダビデはそれだけ言うと、さっさと退去していった。
あとは、もうドレイクだけとなる。ロマニは気を取り直して、ドレイクに声をかけた。
『さて、フランシス・ドレイク船長。本当にありがとう、今回は特例だらけで僕は何もできなかった。でも現地に、君という頼りになる航海者がいた。おかげでこの歴史も無事修正されそうだ』
「いいってことさね。結局、あたしは大したことはできなかったしさ。あーあ、あたしもサーヴァントとやらになれば、もちっと格好がついたんだけどねぇ。ま、あたしみたいなのが英雄扱いされるわけないか」
「あなたはもう英雄だよ」
立香はまっすぐ、なんの衒いもなくそう言った。それには唯斗もまったく同意だ。
ドレイクは確かに、地球を広げた人物なのだ。
「そうかい?あんたの言うことだ、話半分でも信じておくよ。で、やっぱり修正されるとあんたたちのことは記憶から消えるのかい?…はは、まあ答えなくてもその面を見てたら分かるってもんだけどさ」
途端に沈んだ立香とマシュに、ドレイクは笑いつつ、どこか残念そうな様子を滲ませた。