強さも弱さも−10
ディルムッドも本調子となり、サーヴァントたちとの訓練が始まって数日経った頃のことだった。
立香はさらにサーヴァントの召喚を続けており、どんどんカルデアの人口が増えている。食堂を利用する者の数も増えており、人間優先とはいえ、英霊たちがモチベーション維持などにかこつけて食事をする場面も一気に増えた。
それくらいには、エミヤとブーディカ、さらには新たに立香のサーヴァントとなったタマモキャットも加わって充実した食堂の味の評価が高い。
しかし唯斗は食事というものにまったく頓着しておらず、まともな食事ができるようになって少し困惑している。
「おや、予備のマスター殿は好き嫌いがある方なんですねぇ」
「…ロビンフッド」
食事のトレーを置いて空いた席に座ると、向かいで数席離れた位置に座っているロビンフッドがニヤニヤとして話しかけてきた。
あまりロビンフッドとは話していないが、緑のフードのマントにノースリーブのインナー、弓矢をはじめとした様々な小道具など、まさに伝承通りの出で立ちだ。
性格も伝承のイメージ通りな飄々とした性格で、きっちりした性格のサンソンやディルムッド、エミヤとはあまり相性が良くなさそうである。一方、ロビンフッドの方は、立香に正規マスターの座を押し付けて予備に甘んじる唯斗に勝手にシンパシーを感じているらしい。
「…食うか?」
「嫌ですよ、ちゃんと食べないと怒られますよ?オタクのサーヴァント、みんな真面目っすからねぇ」
唯斗はトレーに視線を落とす。野菜の少なさそうな生姜焼きという日本の料理を選んだが、エミヤはきちんと野菜を職員たちに取らせるべく、もはや肉野菜炒めに近いものになっていた。
醬油ベースのおいしそうな匂いが食欲をそそりはするのだが、ピーマンやニンジンを脇に避けていた。それをロビンフッドに見つかったのだ。
「あれ〜?唯斗は野菜嫌いなの〜?」
さらに、後ろから覗き込んできたのはピンクの長い髪を後ろで編んだ派手なサーヴァント、アストルフォだ。今回召喚された英霊の一人で、可憐な少女のような見た目なのに性別は不明、とのことだ。シャルルマーニュ伝説に登場するライダークラスの英霊である。
その隣で同様にこちらを見降ろすのは、アストルフォととても仲が良いというブラダマンテ、同じくシャルルマーニュ十二勇士の騎士でありクラスはランサーだ。ブラダマンテもブロンドの長い髪を揺らす美少女で、立香曰く、重度の円卓オタクらしい。
「いけませんよ、もう一人のマスター!かの名高いアーサー王をサーヴァントとしておられるのでしょう!?そんなことでは!」
「ボクが代わりに食べてあげようか?あぁ、ブラちゃんもアーサー王のサインやディルムッドとのタイマンを許可してもらえるなら協力してくれるかもよ?」
「ななな、なんてことをアーちゃん…いやでもサインも欲しいし槍試合もしたい…!」
騒がしい二人に引いてしまうが、ここで押されると話がまとまってしまう。唯斗はなんとか口を挟んだ。
「いや、別にいいって。さすがに悪いし。つか、アーサーもディルムッドも本人に頼めばいい、俺が許可することじゃない」
「よいのですか?!アーちゃん早速ディルムッド様のところへ!フィオナ騎士団の一番槍と謳われたディルムッド様と我が槍を交わせる!!」
「あ、ちょっと!」
ブラダマンテは騒々しくアストルフォを連れて食堂を出て行った。若干ディルムッドを犠牲にしたような形になったが、あの男も唯斗の前では紳士然りとした騎士ながら実際にはやはり血気盛んだ、この手の話には飛びつく。
「…いやぁ、よく躱しましたねぇ」
「お前は気配消してたろ、アサシンかよ」
二人の特攻に対して、ロビンフッドは完全に気配を消していた。もちろん、存在はアストルフォたちに隠されてはいなかっただろうが、単にその場の空気から離脱していたのだ。