強さも弱さも−12


やってきたのは唯斗のギルガメッシュで、寄ってたかって唯斗を囲んでいる様子を見て引いていた。ブーディカを除いて男ばかり集まって何をしているのだ、というのは唯斗も思うところである。


「ギルガメッシュ王か。マスターがどうやら野菜嫌いらしくてね。注意していたらクイーン・ブーディカに全員で𠮟るなと逆に怒られてしまった」


アーサーが答えると、ギルガメッシュは唯斗の手元を覗き、そして突然噴き出した。


「ッフハハハハハ!貴様、あれだけこの我に対して啖呵を切って睨みを利かせていたというのに、よもや野菜が食えぬなどと子供のようなことを申すか!挙句の果てには、英霊たちが揃いも揃って親のように𠮟るとは!滑稽な茶番よな!」

「……うるさ」


やかましさが先んじて、腹が立たない。
とはいえ、ギルガメッシュは笑いつつも特段侮蔑もなく、単にからかっているだけのようだった。叙事詩でも感情表現の豊かな人物とされているが、その通りらしい。


「…つか何しに来たんだよ」

「英霊の舌を唸らす味と聞いてな、賞味してやろうと来てやったまで」

「別に結構だが?」


それに対してエミヤが答えると、ギルガメッシュはフン、と鼻を鳴らす。


「この我が直々に評価してやるのだ、光栄に思うが良い。だがまぁ、自身のマスターが野菜を残す程度ということか」

「いや、俺が悪いのであってエミヤの飯は美味いんじゃないのか。正直、美味しいとか不味いとかよく分からねぇけど」

「貴様、味音痴だったか」

「…食えればなんでもよくないか……?」


唯斗がそう言うと、またもブーディカのお母さんスイッチに触れてしまったらしい。ぐいっとブーディカが身を乗り出してテーブルの反対側から顔を近づける。


「だめよそんな不摂生な言葉!ちゃんと食べるものには気を遣わないと。どんな食生活だったの?」

「どんな…フランスにいるときは、一応、伯母がガレットくらいは作ってくれてたけど、あとはパンとか、そんなもん。日本ではデリバリーのピザとかコンビニの飯ばっかだった。自分で用意するしかなかったしな」

「やだ、それ本当?育ち盛りなのに、そんなものしか食べてなかったの?」

「別に飢えなければ死なねぇし、いっかなって。食べなきゃいけないから食べてただけで、食べなくて済むなら食事とか面倒なだけだから避けたいくらいだ」


今まで言っていなかったことを言うと、唯斗のサーヴァントたちもひどく驚いていた。食事しているところを見たことはあるだろうが、唯斗が実はそんな食生活で、食べるという行為に対してそのような認識であることは言っていなかった。

ブーディカは表情を曇らせるが、そこにロビンフッドが口を開いた。


「じゃあ、オタクは何が好きなんです?好きな食いモンとか。頼んだら赤い弓兵さんが作ってくれるんじゃないですかね」

「あー…特にない。強いて言えば、うどんとかは食べるのに時間も労力もかからなくて合理的でいいと思う」

「合理的て」


ロビンフッドは笑い、それぞれの英霊は「うどん」が座から情報として送られたのか、意味するところを理解する。ロビンフッドは恐らく食堂のメニューで用意があったのを知っているのだろう。


「……具体的に何が食べたい、なんて考えたことなかった。そんなこと考えても意味なかったしな」

「じゃあまずは、また食べたいと思えるようなもの作らないとね!」


ブーディカはそう快活に笑う。だが決して彼らの腕に問題があるわけではない。


「ブーディカやエミヤの腕じゃなくて、俺の問題だし、気にしないでいい」

「…まったく、仮にもマスター契約した相手がそうも貧相な舌をしていては王の沽券に関わるというもの。特別に貴様に我が宝物庫の美食を堪能させてやろう」


すると、そう言ってギルガメッシュはおもむろに自身の背後に現れた黄金の光の輪から出てきた包みを取り出した。どうやら既製品のお菓子のようだ。


「なぜ現代のブランドが出てくるんだ…」


知っているらしいエミヤは呆れており、ギルガメッシュは呆れたようにため息をつく。


「我が宝物庫は時空から切り離された空間。経年はなく、現代だろうと古代だろうと関係ない。それ雑種、本物を教えてやろう」


ギルガメッシュは包みから球体のチョコレートを取り出すと、唯斗の口元に押し付けてきた。差し出されたため口にしたが、なぜ賢王手ずからチョコレートを食べているのだろう。
そんな淡い疑問は、口の中に広がった上品な甘さと、柔らかくとろけるような触感に消え失せた。


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