強さも弱さも−13
「ッ!うま…え、なんだこれ」
「トリュフなる欧州の菓子だ。フッ、当然よな、我のセレクションに生半可なものなどない」
キノコの方かと思ったが、そういう名前のチョコレート菓子とのことだ。唯斗は初めて食べたその絶妙な味わいに、久しぶりにテンションが上がった気がした。世界が滅びてから、世界にはこんな美味しいものがあったと知るとは皮肉なものだ。
じっとギルガメッシュを見上げて見つめると、その紅の瞳は少し驚きて丸くなる。そして、無言でもう一つ差し出してきた。またも口元まで持ってこられたため、手に取るわけにもいかずそのまま口に含む。
やはり美味しいな、と思っていると、ギルガメッシュはニヤリと笑う。
「まったく、あれだけ鋭利な空気を纏えるくせに、呆けた笑みを浮かべるのだな貴様は」
「悪かったな」
「悪いとは言っておらぬわ、たわけ」
その声音は意外と優しく、召喚した直後のことが嘘のようだ。
一方、そんなギルガメッシュに対してアーサーが咳払いをした。
「…ギルガメッシュ王。餌付けとはまたいい趣味をしているね」
「ハッ、見苦しいぞ異世界の騎士王。そこの凡夫どももな。ケルトの女王が言っていた『逃げ道』とやらはこの我が担ってやろう。お前たちは先ほどのように、母親か小姑のようにネチネチと小言を垂れればよい」
そのギルガメッシュの言葉に、途端にディルムッドとサンソンの視線も険しくなった。だんだんと険悪な空気になってきたところで、意外にもサンソンが最初に言葉を発した。
「あなたには難しい芸当だろう、僕がマスターを甘やかすから気にしなくていい」
そんなサンソンの言葉に対して、ディルムッドが「いえ」と異議を唱える。
「サンソン殿は医師としての見地もお持ちだ、厳しい言葉も必要だろう。ここは俺がその役を引き受けよう」
「ディルムッド殿は些か甘すぎるのではないかな。ここは私が」
アーサーはディルムッドを制して、サンソン、ギルガメッシュと膠着状態になる。いったい何の話をしているのだろう。
それを見ながら、テーブルの向こうではブーディカがエミヤに尋ねる。
「エミヤはいいの?混ざらなくて」
「私は厳しくするつもりだ。マスターに対して、最も現実的に助言できるのは私だからね」
「それはそうかも。まったく、唯斗も変なの引っ掛けちゃったね」
「ああいう手合いに好かれそうなお人ですもんねぇ」
「確かにね」
ブーディカとロビンフッドはニヤニヤとして、エミヤは厨房へと向かっていく。ぶつぶつと「トリュフか…フォンダンショコラは作れる、基本は同じようなものだろうか」と言っており、思考しているようだった。意図を理解して、ブーディカもその後ろをついていきながら「デザートメニュー増やさないとね」と言っている。
結局この野菜は食べなくても済むだろうか、と考えた瞬間に、ロビンフッドがおもむろに皿を持って行った。
「…え、」
「…はい、ごちそーさん。今日だけっすよ旦那」
ニッといたずらっぽく笑い、ロビンフッドは皿の上のものをすべて完食してからテーブルを離れていった。颯爽と踵を返す後姿を見送って、唯斗はまだ言い合っているサーヴァントたちをよそに席を立つ。
最近、やたら食事の時間が騒がしくなった。様々な英霊が絡んでくるようになり、一人で食事をすることが珍しくなっている。そんなこと、カルデアに来る前は考えられなかった。
ものを食べる、ということは、案外悪くないのかもしれない。
口の中に残る甘さを感じながら、唯斗は生まれて初めて、前向きに次は何を食べようか、と考えるようになっていた。