死界魔霧都市ロンドン−2


「…彼女は、」

小さく囁いたアーサーに対して、騎士は怪訝な様子で睨む。気配からしてサーヴァントのようだが、カルデアはこの霧に阻まれてうまく観測できないらしい。


「その霊基…いや、でもおかしい。父上が男なわけ…」

「…アーサー、あの騎士は…げほっ、はぁ、」


一見、騎士の言葉は意味を成さない。しかしこの世界では理解できるものだった。
サーヴァントは霊基を感じ取って相手を理解することがある。二人の様子から、あの騎士の正体はすぐに分かった。


「…モードレッド」

「……何者だ、お前ら。この霧は、そこの父上擬きに抱えられてるヤツみたいに命に関わるモンだ。なのに、お前らは無事なんだな」

「え、え、なに…?」


立香は理解できていないが、マシュは目を丸くしていた。モードレッドと言えば、円卓の騎士の中でもアーサー王の息子だ。
この世界でのアーサー王は女性だったが、モードレッドも女性だったらしい。一方で、ここにいるアーサーは異世界のアーサー王である。極めて複雑な状況だった。
というか、そもそも立香はなぜ無事なのか。

ロマニにしてもマシュにしても、それぞれが混乱する中、別の気配が接近してきた。モードレッドはすぐにそちらに視線を向ける。


「話は後だ。あいつらが来た」

「あいつら…?あの、あなたは本当に円卓のモードレッドさんなのですか?」

「だったらなんだ。お前らも逃げるなら逃げた方がいいぞ。戦えないならな」

「敵性反応ですか?」


マシュは盾を構えて、立香もとりあえず敵が来ているというのであればと霧を睨む。戦闘態勢になったのを見て、モードレッドはにやりとした。


「へぇ。その盾、ふーん…いいぜ、面白いじゃねーか」

「マシュ、敵影確認できた?」

「はい、恐らく…オートマタかと。少なくとも人間ではありません」

「よし、やっちゃおう。アーサーは唯斗のこと頼むね」

「すまないね藤丸君」

「あ?いらねえよ男の方の父上なんて。俺だけで十分だ」


モードレッドはそう言って剣を霧に向けた。モードレッドも戦うらしい。女性ではあるが男勝りな言動をする。
そうして霧から現れたのは、機械のような動き方をするオートマタ、さらにはゆったりと動く謎の生命体と、巨大なロボットだった。


「…ホムンクルス……?」

「人造人間とオートマタ、そんでその後ろはヘルタースケルター。そう呼んでる。足手まといにはなるなよ」

「はい。行きます、マスター!」


マシュとモードレッドだけで、オートマタ2体、ホムンクルス2体、そしてヘルタースケルターと呼ばれた謎の大型自律機械を相手にする。相手の強さは謎だが大丈夫だろうか。


「…アーサー、やっぱりお前も混ざれ。俺も落ち着いてきた」


唯斗は体を離すと、自分のカルデア礼装の袖で口元と鼻を覆う。やはり苦しいが、戦いが長引く方が困る。
アーサーは頷くと、マシュとモードレットが戦っているオートマタたちの後ろに回り込む。その狙いは大きな自律走行のロボット、ヘルタースケルターだ。

見えない剣を構えたアーサーは、鮮やかな身のこなしで地面を蹴ると、緑を基調としたいかめしいロボットを背中から切りつけた。それは斬撃というより打撃で、ロボットは背中から真っ二つに割れた。
火花が散って、甲高い音とともに金属が軋む。大量のガスが噴き出して、一瞬でヘルタースケルターは沈黙した。

ほぼ同時にオートマタとホムンクルスも倒れ、石畳に転がる。


「…フン、やっぱ見慣れないヤツとはいえ父上は父上か。お前、別の世界の父上だな」

「あぁ、その通りだよ。この世界のモードレッド。ただ申し訳ないが、詳しい話をする前にマスターを安全な場所に連れて行きたい。当てはあるかい?」

「へぇ、あの騎士王様がサーヴァントなんてやってんのか。盾野郎に男の父上がこのロンドンに来るとは、いよいよ世紀末だな!」


モードレッドはアーサーの剣筋に目を細め、ニヤリと笑ってそう言った。どうやら敵意はないらしい。
「ついて来い」と言って歩き出すモードレッドを、立香とマシュはどうしようと見遣る。その背中を押すように、通信が入った。


『何が何やらって感じだけど、最優先は唯斗君の安全だ。モードレッドについて行こう』

「了解しました。とりあえず行きましょう、先輩」

「そうだね、一緒に戦ってくれたし、敵じゃないみたいだ」


立香は頷いてマシュと歩き出す。唯斗も立ち上がるが、ふらついたところをアーサーに支えられた。


「間違っても強化して魔術回路を開かないように。おとなしく抱えられてくれ」

「…分かった」

「いい子だね」


アーサーはそう言って唯斗をいつものように横抱きにする。正直自分の足で歩けなかったのは確かで、アーサーの服の首元に顔を埋めて空気を直接吸わないようにするので精一杯だった。
揺れのない歩調を感じながら、アーサーに抱えられ、モードレッドの拠点とやらにまずは向かった。


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