死界魔霧都市ロンドン−4


「つまり、聖杯を回収して時空を狂わせている存在を摘出すれば、この空間は消滅して元の時代に戻ると」

「そういうことになります」

「それならこの状況にも理解ができる。外を徘徊しているオートマタやホムンクルスは、そうした敵性勢力のものだろう」


理解の早いジキルの言うとおり、あの人造人間たちは今回の特異点の原因となっている者の仕業だ。極めて早い段階でモードレッドとジキルに会えたことは幸運だった。
唯斗はソファーから体を起こす。アーサーは慌てて背中を支えてくれた。


「…、とにかく、だ。やることは今までと変わらない。この事態を引き起こしている黒幕の特定と、味方になるサーヴァントの捜索。どちらもロンドン市内だけが対象ならやりやすいけど、それは敵も同じだ。こちらの動向を気づかれるリスクは常にあるし、味方になり得るサーヴァントが敵の手に渡る恐れもある」

「僕も無線で市内の協力者と連絡を取り合っている。味方になるサーヴァントが他にいないか、情報を集めよう。モードレッドは外での活動を今まで通り頼むよ」

「それなら俺とマシュも行くよ。唯斗とアーサーはここでジキルと残ってくれ」

「よっし!じゃあ早速行くか、もともと予定があったんだ」


立香はモードレッドとともに屋外活動に出るつもりらしい。つまり唯斗は予備員にも関わらず、安全な後衛待機ということになる。
そんなわけにはいかないと、立ち上がった立香たちについて行くことを提案しようと唯斗も足に力を入れようとしたが、体の節々に鈍い痛みが走った。


「っ、立香、俺も…うぐっ、」

「マスター、無理は禁物だ。ダ・ヴィンチ女史のマスク開発を待とう」

『僕もアーサー王の意見に賛成だ。唯斗君、気持ちは分かるが、そのアパルトメントに待機するんだ。マシュ、分かってると思うけど、出発前に召喚サークルを確立するように。無線は唯斗君とマシュ、カルデアの3回線をオープンにして常に互いにモニターしよう。いいね、唯斗君』


このアパルトメントはちょうど霊脈の上にある。マシュがターミナルポイントを設置すれば、立香はカルデアからサーヴァントを召喚できるようになる。あれだけ戦力を拡充したのだ、足りないということはない。

いや、今までだって、唯斗がいなくてもずっと何とかなっていた。


「…分かった。その代わり、」


唯斗は立香に手招きをする。立香は首をかしげつつ応じて、ソファーに座る唯斗の前に立った。しゃがめ、と合図すれば、腰を屈めてこちらに顔を寄せる。

その綺麗な青い瞳を覆うように、両目に手の平をかぶせた。


「唯斗…?」

「お守り程度だけど…ッぐ…!」


魔術回路を開いて魔術を使うと、まだ体内に残っている魔霧の魔力が反発して、体を締め付けられるような痛みが走る。


「唯斗っ」

「大丈夫だ…!これくらい、なんともねぇ、荷物になるのは御免なんだ…!」


ズキズキと痛むのを耐えながら魔術をかけると、手を離して背もたれに凭れる。息を荒くする唯斗に立香は心配そうにしていた。


「視界に強化をかけた。この魔霧じゃ、カルデアの索敵はあてにならない。モードレッドやマシュが戦闘中、立香に近づく敵性反応を見つけやすくしてある。過信はするなよ」

「ありがとう、そんなこともできるんだ」

「魔術師の基本中の基本だっつの。マシュ、頼んだぞ」

「もちろんです唯斗さん。外のことはお任せを」


そうして、マシュが召喚サークルを確立させてから、モードレッドたちとともに外へと出て行った。行き先は魔術師である科学者のフランケンシュタイン、これもまた小説の登場人物だが、この世界では実在するらしい。

通信はオープンのため、常に立香たちの会話も聞こえてくる。ジキルが無線でやりとりする声もあって、室内は声が常に聞こえているが、ソファーに横たわる唯斗には何もできない。
先ほど魔術回路を一時的に開いたためにまた痛みがぶり返しているが、それよりも、役に立たない自分が死ぬほど悔しかった。

これが悔しいという感情なのか、と、唯斗は初めてこの身を焼くような感情を知ったのだ。


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