死界魔霧都市ロンドン−7


立香たちがヴィクターの邸宅で明らかにした敵の情報は、敵は「魔霧計画」を実行していること、主犯は「P」「B」「M」の3人であることが分かっている。
邸宅にいたフランケンシュタインの怪物、立香命名のもとフランと呼ばれる少女の人造人間とアンデルセンの二人が新たに仲間となった。

恐らくMはメフィストフェレスのことだと考えられるため、残る中心核は二人だろう。

立香たちが戻ってきてからの動きとしては、引き続き味方になるサーヴァントを探しつつ、残りの敵であるPとBの動向を探ることになるはずだった。
しかし、ジキルは緊急の無線を受信する。


「スコットランドヤードからだ」

「ロンドン警視庁か。まだ機能してるんだな」

「いや、立て籠もっていたはずだ…うん、襲撃を受けているらしい」

「警察が?なんでわざわざ…」


ロンドンの警察全体に救援無線がヤードから流されているようで、それを受信してジキルは難しい表情を浮かべる。


「まるでじわじわとロンドンの息の根を止めようとしているかのようだ」

「魔霧計画とやらの一環なのか…サーヴァントなら警察なんて歯牙にかけるようなモンじゃないだろうに」

「分からないけど、無視するわけにはいかない」

「そうだな。立香たちには悪いけど…」


何度も外に出て休み暇もない状態にさせてしまい申し訳ないが、このまま敵の計画が成功してロンドンが全滅してしまえば特異点として修復しようがなくなってしまう。
唯斗の隣でソファーに座ったままのアーサーもジキルに尋ねた。


「ちなみに、スコットランドヤードを襲撃しているのはオートマタたちかい?」

「…いや、それが、無線の内容によれば、切り裂きジャックらしいんだ」

「…あぁ、そういや、1888年だったな。いや、でも……」


言いよどんだ唯斗に、アーサーは「どうかしたのかい?」と聞いてくる。唯斗は顎に手を当てて、切り裂きジャックの記録を思い出す。かつて、サーヴァントとして召喚され得るのか疑問に思ったことがあったのだ。


「未解決事件で犯人が分かっていない事件であり、未解決事件だからこそ世界的に有名な事件となった。犯人像が分からない以上、サーヴァントになるとしても、それこそナーサリー・ライムのような概念やメフィストフェレスのような物語の登場人物になるはずだ。何よりこの時代は事件が起きている最中なわけだから、生前の可能性が高い。まさかこんなところで真犯人が分かるのか…?」

「どうだろう、生前の人間であるなら、単独で警視庁に救援を出させるほど追い込めるんだろうか」

「確かに。だとするとやっぱりサーヴァントか。分からないな…」


ジャックというのは、英語圏における「太郎」やら「権兵衛」のような、固有名詞として特定できない人物に対して使う総合的な名称のことで、そういう名前の人物が実際に殺人をしていたというわけではない。
単独犯か複数犯なのか分からず、確実に模倣犯であろう事件も頻発していたため、被害の全容も被疑者像も定かでないのだ。

そこに、立香たちが戻ってきた。メイド服を着た人造人間フランと、少年のような見た目の童話作家アンデルセンの二人を連れてきた直後に、ジキルはスコットランドヤードの話をする。ちょうど無線で伝えようとしていたところだった。


「戻ってきたばかりですまない。緊急事態だ。スコットランドヤードが襲撃されている。犯人は切り裂きジャック、もしサーヴァントならアサシンだろう」

「切り裂きジャック…!?」

「おい早く言え!行くぞ藤丸!」

「うん、マシュも急ごう!」

フランとアンデルセンだけ置いてすぐに出発しようとする立香に、唯斗は慌てて後ろから声をかける。


「切り裂きジャックは未解決事件の犯人だ、生前の姿だろうとサーヴァントだろうと、わざわざ警察を襲うなら魔霧計画の一部かもしれない。気をつけろよ」

「うん!」


頷いて、立香はすぐにアパルトメントを出て行った。それにしても、ずっと歩き詰めだろうに疲れを見せない。
唯斗はすぐに強化に頼るし、それは合理的な方法だが、魔術のできない立香が自ら鍛えて体力を作っていることを知っている。

立香が魔術師ではないからこそ、特異点の修復に成功しているのではないか。唯斗はそう思うようになっていた。


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