死界魔霧都市ロンドン−8


最速でスコットランドヤードに向かった立香たちだったが、残念ながら、一歩及ばなかった。
結果的に警視庁は全滅し、立香たちはアサシンのサーヴァントとなっていた切り裂きジャックを倒すことには成功したものの、一緒にいた黒幕のひとり、Pと呼ばれたキャスターは取り逃がした。
Pいわく、警視庁内部にあったあるものを回収するためだったという。

人の愛や思いの尊さを語るわりに、その行動は大量殺人を教唆するもので、大きな矛盾に本人すらちぐはぐな態度を取っていた。
ヤードからの立香たちの帰還を待ちながら、唯斗はアーサー、ジキル、アンデルセンとともに先ほどまでの状況を振り返る。


「転移魔術については、ロマニが予想していた通り、聖杯によるものだと思う」


唯斗がまずそう肯定すると、アンデルセンは「だろうな」とため息をつく。


「で、あのキャスターの正体、予想はつくか?」

「Pが頭文字だというなら…あの科学者みたいな出で立ち、人の内心にやたら固執してた言動、何よりこの特異点に呼ばれているサーヴァントの特徴から考えて、スイスの学者パラケルススが候補に挙がるな」


スイスのバーゼルなどを中心に放浪しながら活動していた学者がパラケルススだ。水銀療法などを初め、化学を医学に組み込んだ功績で知られる。ただ、こう言えば聞こえはいいが、当時のドイツ地域で根強く信奉されていた神秘主義哲学に基づく考え方をしていたため、当時からオカルト的な捉え方をされており、賢者の石を生み出そうとしていたともされる。

アンデルセンは唯斗の推測を聞いて、面倒そうに背もたれにふんぞり返った。


「もしそうなら宝具は賢者の石関係、聖杯も絡んでるなら碌なことにならんな」

「そうだね。それにしても…藤丸たちは大丈夫だろうか、ヤードの警官たちを救えなかったことを気に病んでいないといいのだけど」


無線機の置かれたデスクの前に座るジキルの言うとおり、これから帰ってくる立香たちのメンタルも少し心配だった。


「めちゃくちゃ気に病むってことはないだろうけど、気落ちしてはいると思う。休ませてやりたいところだけど、いっそのこと思い切り暴れさせた方がいいかもな」

「モードレッドは毎晩、夜の哨戒もやってくれてる。彼らにもついていってもらおうか」

「眠すぎて考える暇もない、ってくらいの方がちょうどいいだろう。作家の俺が言うんだ、間違いない」


自虐のようなよく分からないことを言うアンデルセンだったが、やはり言葉を操る人物だけある。

その後帰ってきた立香たちが案の定沈んだ表情だったのを見て、アンデルセンはモードレッドたちを焚き付けた。その口車に乗せられて、モードレッドはシティの端まで哨戒に行くことを提案、立香とマシュもついて行った。

唯斗の体調はだいぶ良くなってはいるものの、カルデアではまだマスクの作成に時間がかかっているようだ。
立香たちの通信を聞くことに集中している唯斗を見て、アンデルセンは再び呆れたようにため息をつく。


「本当は、気絶するまで動いた方がいいのはお前だろうけどな」

「…魔術回路も開けない魔術師なんざ、一般人以下だしな。まぁ、今回のことは正直どうしようもない、自分を責めるつもりはないし、ていうか立香がおかしい」

「ほぉ。ま、お前の事情は知らんし聞かないが、動けるようになったらあいつらより動ける状態にしておけよ」

「当然だろ。バーサーカーのごとく暴れてやる」

「マスターはもともとバーサーカー脳だろう」


アンデルセンの方はぶっきらぼうながら励ましてくれているようなのに、隣に座る自身のサーヴァントがそんなことを言ってきたため、とりあえず肘打ちを入れておいた。


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