死界魔霧都市ロンドン−10
翌朝、立香たちが早朝の哨戒にあたっている間、唯斗はついにカルデアからサークルを通して待望の品を贈られた。
『お待たせしたね、唯斗君。そちらの大気組成に対応する対魔力ガスマスクだ!』
ダ・ヴィンチが自信満々に贈ってきたマスクは、よくある鼻と口を含む顔の下半分を覆ういかついもので、左右に空気を通すフィルターがついている。真っ黒なそれは、唯斗の知るものよりかは、いくらかスマートな見た目をしていた。
『君の綺麗な顔を邪魔しないようなデザイン性!ここに一番時間がかかったよ』
「…いやおい、それはもう度外視だろ」
『嘘うそ、じょーだんだって!フィルターは君の魔力によって機能するから、唯斗君の魔力がつきない限り無制限に使えるよ』
「マスターなら、実質それは永遠に使えるね」
「永遠は盛ってるけど…そうだな、安心して使える」
付け心地も悪くない。さすがダ・ヴィンチだ。
マスクをつけて試しているところに、立香たちが帰ってきた。少し疲れているように見える。
「唯斗さん、それはダ・ヴィンチちゃんのマスクですか?」
「そう。これで俺も外に出られる。立香は…どうした?」
「実は、ヘルタースケルターが大量に現れてるんだ。量産されてたみたい」
「へぇ。やりがいがあるな」
「唯斗…?」
唯斗の言葉に立香が顔を引き攣らせたところに、アンデルセンがやってきた。ニヤリとしてこちらを見ている。
「頼もしい言葉だな。俺もちょうど、用事を頼もうと思っていたところだ」
「なんか当てでもできたか?」
「色々と引っかかりを覚えてな。ここはロンドンだ、一度行ってみてもいいんじゃないか」
「…時計塔か」
「そういえば…!話題に出ませんでした」
アンデルセンが提案したのは、時計塔への訪問だった。この状況だ、恐らく機能していないだろう。
ジキルはモードレッドと顔を見合わせる。
「実は、時計塔は僕とモードレッドが一番最初に確認したんだ」
「大英博物館が入り口になってるっつーあれだろ?徹底的に破壊されてたぜ。ロンドンじゃ珍しくな」
「敵も一番先に攻撃しただろうな。でも、時計塔は地下空間に何層にも渡って広がる巨大な地下迷宮だ。壊れてるのは表層だけだろ。相手の狙いは魔術師の殲滅だったはずだし」
「俺たちの目的は資料の捜索だからな。肉体労働要員が増えたなら早速行くか」
アンデルセンの提案に対して、ロマニも賛同する。味方がいるとは思えないが、この状況では敵へと至る核心的情報がないばかりか、ヘルタースケルターが増員しているため悪化している。
「俺とアーサー、モードレッド、アンデルセンと…」
「我が輩も行きましょう、何やらインスピレーションもあるに違いない」
「僕も行くよ、天下の時計塔だしね」
「…シェイクスピアとジキルも追加だな。立香、マシュ、ずっと働きづめだったんだし、ちょっと休んでろ」
「え、でも…」
立香は食い下がろうとするが、その目元は眠たげだ。バイタル異常ほどではないはずだが、今日くらいは休んでもいいだろう。
「時計塔が見てみたいなら止めないけどな。休んだ方がいいとは思うぞ」
「先輩、私も休まれた方がいいかと。時計塔は大変気になりますが…」
『そうだね。唯斗君とアーサー王がいればそれだけで十分だろうし、唯斗君のサーヴァントだっている。立香君も、どうしても行きたいというわけではないなら休むといい』
マシュ、ロマニに言われて、立香もさすがに休む気になったらしい。唯斗が座っていたソファーにマシュと並んで座る。
「うん、じゃあ任せるよ。マシュはどうする?」
「私は何かあったときのために起きています。通信も繋いでいるので、先輩は寝ていてください」
「分かった、ごめんね」
立香はそう言うなり、ソファーに横になって眠りに落ちた。
作家二人は「おお…」と感心したようにその寝付きの良さに息をつく。
「よし、アーサー、モードレッド。暴れるぞ」
「マスター…強引に休まされた反動でバーサーカー脳が強化されてるね…」
「いいなお前!ぶちかましてやろうじゃねぇか」
一方で、珍しくやる気の唯斗と、それに乗ってニヤリとするモードレッドに、ジキルとアーサーは呆れたようにしていた。