死界魔霧都市ロンドン−12
まず入り口から最寄りの資料室までやってくると、唯斗はアンデルセン、ジキルとともに室内に入った。一方、アーサーたちは室外で残存敵性反応を警戒する。
薄暗い室内は、なぜか不自然に整っていた。
通路は瓦礫が点在し、地下の魔術師たちを殺して回ったのであろう痕跡が残っていたが、ここだけ人為的に綺麗なのだ。
さらに、よく見ると、この広い資料室の中で点在していた資料が一カ所に集まっていた。
「…なんだこれ、関連する資料が全部一カ所になってる」
「誰がやったかは分からんが、誰かがやったのは確かだな」
「薄気味悪いな…あぁそうだ、時計塔の資料は持ち出せないようになってるから。ここの資料も、多分通路に出すこともできないぞ」
「なるほど。それは仕方ないな」
アンデルセンは封印された資料を見て、その仕様を理解する。キャスターではあるが、この封印を解くことができないとすぐに分かったようだ。
そこへ、外からアーサーの声が聞こえてくる。
「マスター!一気に敵性反応がやってくる!」
「じゃ、俺は外にいる」
「僕も参加しよう」
大量の資料をものすごい速さで閲覧し始めたアンデルセンを放っておいて、唯斗とジキルは通路に戻る。通路はすでに、多くの敵がこちらへと集まってきていた。左右二方向どちらも敵で通路が塞がれていた。
「左側はセイバー二人に任せた。右側は俺とシェイクスピア、ジキルでやるぞ」
「この状況では致し方ありますまい」
「分かった」
シェイクスピアは嫌そうにしつつ頷く。アーサーとモードレッドは揃って通路の奥へと敵を薙ぎ倒しながら進んでいった。
そろそろ通信を戻そうとオープンにすると、焦ったようなロマニの声が聞こえてきた。
『大丈夫かい!?』
「大丈夫だ。時計塔の魔術が邪魔してたっぽい。敵性反応は感知してるか?」
『通路に向かって大量にね。アンデルセンは資料の閲覧中かな?』
「そんなとこだ」
いけしゃあしゃあと嘘をつく唯斗にジキルは苦笑する。
しかし、止まらない敵の勢いにシェイクスピアはヒイヒイ言い出すと、だんだん余裕もなくなってきた。
あまりに狭い空間のため、唯斗はサーヴァントをぎりぎりまで呼ばないようにしていたが、そろそろだろうか。
「…よし、僕は奥の手を使う。シェイクスピアは下がってていいよ」
「奥の手?」
「この霊薬を使う」
ジキルはそう言って、注射器を腕に刺した。恐らく、小説通りハイドになるのだろう。今更そんなファンタジー展開には驚かない。
ジキルは注射器を放ると、「ぐ…ッ!」と唸る。そして、顔を上げたとき、そこには眼鏡を外して赤い瞳をギラつかせる男が立っていた。髪型も変わっており、いくらか体型も変わっている。ヘンリー・ハイド、ジキル博士の悪性だ。
「ひゃははは!!俺様ちゃん参上ォ〜!!暴れるぜえええ!!!」
ハイドはジキルからは考えられないけたたましい笑い声を上げると、通路の奥へと走って行った。右側は遠距離攻撃主体でやっていくつもりだったが、ハイドが近距離戦になってしまったため、唯斗はサーヴァントを呼び出す。
「サンソン」
「ここに。おや、ここは…」
「ロンドンの時計塔本部だ。全滅してるけどな」
「なるほど…まずはこの狭い通路からの敵の放逐ですね」
「あぁ。前方でヘンリー・ハイドが暴れてるから気をつけろ」
「分かりました」
サンソンはいつも通り落ち着いた声で答えると、剣を出現させて廊下の奥へと一瞬で突っ込んでいった。唯斗はそのタイミングで室内に声をかけた。
「アンデルセン、どうだ!」
「あと少し待て!ちょうどいいところなんだ!」
「ったく…」
どうせ趣味で個人用の資料も見ていることだろう。マイペースさに呆れつつ、唯斗は次第に漏れた敵がこちらにやってくるのを確認した。
「おや。唯斗殿、我が輩はまだ戦えませんよ」
「聞いてないだろ。ディルムッド」
「はい。これはまた狭い場所ですね」
「防衛戦だ。頼むぞ」
「お任せを。あなたには指一本触れさせませんよ、我が主」
再びディルムッドを呼び出すと、ディルムッドは唯斗の近いところでやってきた敵を槍で次々と突き刺していく。
狭い通路であるため、長い獲物は使いづらいが、それくらいディルムッドには特に障害ではない。ギリギリまで接近させてから、ディルムッドが一気に倒していくのだ。
唯斗がガンドや結界を使うまでもなく、ディルムッドによって周囲の敵もすべて掃討された。
「よし、終わったぞ唯斗」
「おう。全員撤退するぞ!!」
アンデルセンが悠々と資料室から出てきたのを確認し、唯斗は通路の左右に呼びかける。あまりいい記憶のないところだ、とっととこんなところは後にしたい。