死界魔霧都市ロンドン−13


時計塔からアパルトメントに戻ってくると、立香は起き上がってマシュと出迎えてくれた。

さすがのサーヴァントたちも休憩するべく、しばらくは屋内待機となる。
いつも通り、ジキルの個人用のソファーにモードレッドが乱暴に腰掛け、大きめのソファにマシュと立香、唯斗が座る。アーサーは唯斗の近くに立ち、デスクチェアにジキルが座った。
アンデルセンとシェイクスピアは隣の書斎に引きこもっている。

ちなみに帰って来てからすぐ、アンデルセンは時計塔で確信した仮説をロマニや立香たちに話した。冬木の聖杯戦争には、7騎の選ばれた英霊による7対1の戦いをするための召喚儀式というオリジナルが存在するというものだ。
ロマニは感心したようにそういった仮説を評価していたし、マシュも「さすがのご慧眼です…!」と言っており、やはり神秘として秘匿しておくべきレベルであったようだ。

グランドクラスによるビーストとの戦いのための儀式が元になっている、というのは、ロマニたちですら知らないようだった。
いや、立香がいる手前、知らない振りをしただけの可能性もあったが。

とはいえ、大英博物館への訪問そのものは特異点解決の直接的助けにはならなかった。唯斗は体を動かしたかっただけだったが、モードレッドは「何のために行ったんだ…」と呆れていた。

そうして休んでいると、カルデアからヘルタースケルターの解析結果を報告する通信が入った。


『どうやら、ヘルタースケルターは宝具の一種の可能性があるんだ。つくりは機械だけど、動力は魔力になっている。ゴーレムとかとは違うわけだ。複数のヘルタースケルターが動いているのは、リモコンのようなものだね』

「では、宝具の持ち主であるサーヴァントを倒せばいいわけですね」

『そういうことだ』


ようやく、明確にやるべきことが分かった。倒せばいいなら倒しに行くだけだ。

ロマニの方では持ち主のサーヴァントの場所までは分からなかったとのことだが、なんとフランが魔力の流れを追跡できるとのことだったため、立香とマシュ、モードレッド、唯斗、アーサー、フランで外に出ることになった。ここにてきて初めて、立香と同じ行動を取ることになる。

再び霧に包まれるロンドン市内に出ると、モードレッドが立香に耳打ちした。
恐らく、先ほどから沈んだ表情をしているマシュのことだろう。実際、立香はモードレッドが離れてからマシュに声をかけた。


「マシュ、どうしたの?」

「…はい、その。身体面は問題ないのですが、精神面が……今まで様々な英霊たちの宝具を見てきて、私は成長がなく…」

「なーんだそんなことか!あれか?ヘルタースケルターが宝具だって聞いて沈んでんのか」


モードレッドは核心を突いたようで、マシュは頷く。こういうとき、マシュは隠さない。


「はい。私は一向に、融合した英霊の真名すら分からず…宝具も万全ではなく…」

「確かになぁ、宝具の使えないサーヴァントはサーヴァントじゃねーからな。宝具はその英霊が生きた証そのものだ」

「……彼は、私に託してくれたのに」

「そうだな。見たところ、三分の二くらいは眠ったままだな」


後ろで聞いている唯斗は、隣のアーサーを見上げる。アーサーは首を横に振って、加わる気がないことを伝えた。複雑な立場であることもそうだが、必ずしもギャラハッドがアーサーの世界と同じかどうかも分からないし、何よりもこれは、マシュの問題だ。


「私の人間的な部分が、その三分の二を眠らせてしまっているのでしょうか」

「ばーか、ちげーよ。言っとくけどな、お前、多分元の英霊より強いぞ」

「え…?」

「だって、立香のパートナーはお前だろ」


モードレッドの視線を受けて、立香は勢いよく頷く。


「そうだよ!俺にとってマシュが一番の味方だ。中の英霊じゃない」

「それに、サーヴァントの状態管理はマスターの仕事だろ。なぁ、唯斗」


今度はモードレッドが唯斗に話を振ってきたため、立香とマシュもこちらに目線を向ける。振られるとは思っていなかったが、しかしモードレッドの言うとおりだ。


「俺もこの前、ディルムッドが宝具をフルで使えてないって言うから、あいつの深層心理まで飛び込んで宝具の解放してきた。そういうのは必ずしもできねぇし、多分デミ・サーヴァントにはできないだろうけど、マスターの責任だな。頑張れよ立香」

「うん、俺が一人前になるよ。ていうか、特異点Fからずっと、俺とマシュは一緒に成長してるんだと思う。これからも一緒に一人前になろうね」

「…はい!先輩がそう言ってくださるなら、前向きになれる気がします」

『…話はまとまったかな?いい空気のところ悪いんだけど、敵性反応だ』

「うわ、さすがの俺でも空気読めよって思うわ…」


思わず唯斗が言うと、ロマニは『唯斗君に言われるなんて!』と嘆く。ちゃっかりとても失礼だった。


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