特異点F: 炎上汚染都市冬木−7
キャスターと立香が仮契約したのはいいが、それでもなお、サーヴァント二人と非戦闘員二人、半端に戦える唯斗という布陣であることには変わりない。いくらシャドウ・サーヴァントが劣化版とはいえ、戦力はギリギリだった。
それを理解しているキャスターは、マシュが宝具を使えないことに危機感を覚えたらしく、強引に戦闘訓練によってマシュを目覚めさせることにしたようだ。
立香とマシュがキャスターによって消耗させられながら戦うのを横目に、唯斗とオルガマリーは瓦礫の合間で周囲の索敵にあたる。とはいってもオルガマリーは役に立たないので唯斗一人でやっている。しかしそれも、キャスターがしっかり気を回しているだろうから、建前のようなものだった。
「…所長」
「なんですか」
「この特異点Fだけが2017年以降の観測を不可能にした要因だと思うか」
「どうでしょうね。観測が不可能である、という状態が何を指すのかによって違うでしょうし、特異点を調査することでその状態を定義できるかもしれない。どちらが先かは分からないけれど、考えられる最悪のケースは…」
マシュの盾が激しく音を立て、苦しそうな声が聞こえてくる。随分とスパルタなようだ。
「…人類史が特異点によって狂い、2017年から先の人類の歴史が消失している?」
「……ええ。もしそうなら、この特異点だけでそうなるとは思えないわ。歴史の修復力を前に、地方都市の一つが壊滅しただけで人類が丸ごと滅ぶなんてありえない。とにかく、今はあまりに情報が少ないの。憶測でしかないわ」
そこまで話したところで、ついにマシュは宝具を部分的に開放することに成功したらしい。
なおもやりづらそうにしつつ息を切らすマシュに、見かねてオルガマリーはアドバイスを行い、宝具解放による攻撃に名称をつけた。
「
疑似展開/人理の礎」と名付けられたことで、マシュはようやくイメージを固められたらしい。
ひと段落ついたところで、いよいよ大聖杯があるという洞窟へと本格的に歩みを進めた。
「天然の洞窟のように見えますが、これはもとから冬木にあったものですか?」
薄暗く湿った洞窟は、市街地の火災などものともせずにひんやりとしていた。不気味な雰囲気も漂うそこは足音が響き渡り、マシュの驚いたような声もよく反響していた。
「でしょうね。これは半分天然、半分人口よ。魔術師が長い年月をかけて広げた地下工房です。それよりキャスターのサーヴァント、大事なことを確認してなかったのだけど。セイバーのサーヴァントの真名は知っているの?」
そこへ、オルガマリーがキャスターにそう尋ねた。マシュは宝具を解放できたが、依然としてサーヴァント2名で戦える相手なのかということだ。
「あぁ、知っている。ヤツの宝具を食らえば誰だって真名…その正体に突き当たるからな。他のサーヴァントが倒されたのも、ヤツの宝具があまりにも強力だったからだ」
「それって…?」
キャスターの口から「あまりに強力」と聞いて眉を顰める立香。唯斗はまさか、と急に恐ろしくなった。クラスがセイバーでこれほどの言われ方ということは、唯斗に「縁」があるかもしれなかった。
「王を選定する岩の剣の二振り目。お前さんたちの時代において最も有名な聖剣。それは」
「
約束された勝利の剣。騎士の王と誉れ高い、アーサー王の持つ剣だ」
言葉を引き継ぐように割って入ってきた低い声。全員が慌てて振り向くと、アーチャーらしきシャドウ・サーヴァントが洞窟の闇と同化しながら立っていた。
「アーチャーのサーヴァント!?」
「言ってる側から信奉者の登場だ。相変わらず聖剣使い守ってんのかてめぇは」
「ふん、信奉者になった覚えはないがね。つまらん来客を追い返すくらいの仕事はするさ」
すぐに臨戦態勢になるキャスター。マシュも詠唱するキャスターをフォローするため前に出て巨大な盾を構える。
そして、唯斗は恐れていた事実に胸がざわついていた。アーサー王の所持していたエクスカリバーを宝具とするのなら、それは間違いなくアーサー王自身だ。あの日、唯斗を優しく抱き締めてくれた姿が思い出される。
いや、いずれにしても、この街で出会うなら、そして唯斗たちがカルデアに戻るには、倒さなければならない相手なのだ。また会えるなら、敵でもいいとすら思った。召喚される英霊は記憶を記録として共有するのみで、影だけが現世にやってくることから、過去に召喚されたことがあっても異なる個体として現れるという。
それなら戦うことに、ある程度躊躇いはないだろうと思った。