死界魔霧都市ロンドン−16


ロンドン地上市街地から数百メートルの地下空間、そこには巨大な空洞が広がり、まるで冬木の大聖杯を思わせる巨大な魔力炉が聳えていた。

まるで丘のようなそれの中央部には球形の機械が鎮座し、ガスが噴き出している。


「…なんだ、これ…時計塔の地下には地下都市があるってのは聞いたことがあったけど、これは、そんなレベルじゃ……」

「ほう、まだ時計塔の関係者が生きていたか。いや、ただの未来からの来訪者かな」


一同を出迎えたのは、精悍な顔つきの若い紳士だった。アングルボダを背後に立ち構える男は、こちらを読めない目で見つめている。
立香が前に出て男と対峙した。


「お前は何者だ」

「私はマキリ・ゾォルケン、Mという名前でこの計画を首謀した」

「…マキリ?あのロシアの、召喚術に秀でた家の…?」

「ふむ、そこまで知っているか」


マキリという男は唯斗を見据える。温度のない視線にぞっとした。何やら、狂気を感じさせる目をしている。


「…あぁ、なるほど。その魔力、覚えがある。そうか、そこは婚姻して一つの家系となったのだな」

「……あなたは、この時代の生前の人間だな。なのに、俺の血筋まで分かると」

「驚きはないだろう。君の知るマキリ家の力ならば」


ロシアの魔術師の家系であるマキリ家は召喚術で知られていたそうだ。だが、現代では日本に本拠地を移し名前も日本名に変えているため、欧州ではほとんど名を知られなくなっていた。
父の資料においても、とりわけマキリ・ゾォルケンの論文が多く見られた。時計塔から複写して持ち出したそうだが、よくそこまでしたものだ。

唯斗の家系であるグロスヴァレ家も雨宮家も、数百年以上続く名門だ。マキリもよく知る家だろう。ただ、それを見ただけで判断するというのは、見ただけで唯斗に備わる魔術回路を読み解く力があるということだ。


「気をつけろ、そいつ、人間だけど、一人で一騎くらいならサーヴァントと張り合えるぞ」

「え、人間なのに…!?」


唯斗の言葉を聞いて、マキリは自嘲気味に一瞬だけ笑う。


「フッ、たとえそうでも、私は王の前にはカスも同然。醜悪な未来の私でさえも…だが、お前たちごとき、止めるにあまりある。さあ見るがいい、我が王の力を」


直後、マキリは光に包まれた。これまでの特異点と同じだ。眩い光に、唯斗は腕で目元を隠しつつ、距離を取る。代わりにアーサーが唯斗の正面に立ったのが分かった。腕で防ぐ必要がなくなる。

そして、そのアーサーの肩越しに、洞窟の天井へと立ち上る巨大な肉の柱が現れるのが見えた。


「な、んだこりゃ…?!」


モードレッドの驚愕の声が滲む。
マキリがこの時代を狂わせた張本人であり、魔神柱の力を与えられた人物だったということで間違いない。

魔神柱につられてか、次々とスケルトンやゾンビなど、この地下空間特有のエネミーたちが出現する。それなりに数がいるため、分けて対処するべきだろう。


「アーサー、魔神柱の方を頼む」

「了解」

「サンソン、ディルムッド、エミヤ」


続いて一気に3人を呼び出すと、3人とも魔神柱を見て顔をしかめる。特に、サンソンとエミヤはもう3度目だ。


「いつ見ても不愉快な姿ですね」

「まったくだ」

「サンソンはアーサーやモードレッドと魔神柱へ。ディルムッドとエミヤ、見ての通り俺はこのマスクがないとこの空間では致命的だ。ディルムッドは中距離で他の敵の掃討を、エミヤは俺のそばでアーサーたちとディルムッドの援護をして、二人で俺への敵の接近を防いでくれ」


サンソンは「承知しました」と言うなりすぐに魔神柱へと駆け出していく。すでにアーサーとモードレッドも魔神柱に剣での攻撃を開始していた。


「このディルムッド、あなたが一歩すら動く必要のないよう守り切ってみせましょう。背後は頼む、エミヤ殿。それでは推して参る!」

「承知した…まったく、また随分と惚れさせたものだな、マスター」


ディルムッドが猛烈な勢いでエネミーを薙ぎ払っていくのを見ながら、エミヤは呆れたように唯斗を見てくる。あの宝具の解放の一件以降、ディルムッドは少し吹っ切れ過ぎたきらいがある。

エミヤの言葉に否定できず、唯斗はため息をついた。


「まぁ、頼もしいからいい。それにしても、アーサーとモードレッドが並んでロンドンのために戦うとはな」

「まさに特異点といったところだろう。さて、私も最愛のマスターが指一本すら動かさないよう働くとするか」

「いやそれもう金縛りだろ」


ニヤリとしてから、エミヤは弓に剣を装填して魔神柱やディルムッドに迫る敵などランダムに攻撃を開始した。
こちらに近づくエネミーがいれば、直接剣で切り付ける。いつでも飄々と皮肉交じりに会話するエミヤだが、こうしたやり取りにひどく救われるのだ。


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