死界魔霧都市ロンドン−17
魔神柱に対して、立香はキャスターとアストルフォを召喚しており、周囲のエネミーに対してはマシュが対応していた。
アーサーとモードレッドが目にもとまらぬ速さで斬撃を叩きつけていき、キャスターとエミヤが遠隔で攻撃を行い、アストルフォがヒポグリフに乗って縦横無尽に攻撃を繰り出し、そしてサンソンがその合間を縫って回復しようとする傷口を狙うように追い打ちをかけていく。
ローマのとき、初めての魔神柱との闘いでは、こちらの手札がなくアーサーのエクスカリバーを少しだけ解放した。
船上での先の戦いでは、場所が悪く思うように動けなかった。
しかし今回は、手札も多く場所も申し分ない。魔神柱との戦いは、順調に進んでいき、本当に唯斗は一歩も動くことがなかった。
「くたばれぇぇえ!!!」
そんなモードレッドの雄叫びとともに、その魔剣クラレントから深紅の雷撃が放たれた。アーサー王への怨念のような禍々しい雷撃は、魔神柱の表面を舐めるように走ったあと、魔神柱を焼き尽くした。
異世界の父であり見た目も性格もまったく違うらしいアーサーとは気安くしているように見えたが、当のアーサーは微妙な顔をしてその輝きを見ていた。
とにもかくにも、その一撃によって魔神柱は沈黙、その巨大な姿は光とともに消失して、後には瀕死のマキリだけが残った。
戦闘終了を察して、残敵の駆除も終えていたディルムッドを含め、カルデアのサーヴァントたちは一斉に戻る。残された立香たちは、地面に倒れたマキリに目を向けた。
「ば、かな…王の、力が……だが、まだ、終わりでは…ない…ッ!」
呪詛のように言うマキリは、おもむろにその血に汚れた手を地面について、詠唱を始めた。簡略化された上に、恐らく狂化が付与された一文まで加えているそれは、召喚術の詠唱だ。
「ッ、まずい…!」
唯斗が焦ったのを見て、モードレッドはすぐに留めの一撃をマキリの背中に切り付けた。マキリは吐血して再び倒れるが、それでも不敵に笑う。
「ぐ…ッ!だが、もう、遅い…!」
『いったい何を…!?』
「この、召喚によって…この魔霧は、ブリテン全土を覆い、人類史を、覆す…!」
『な、そんなことは不可能だ!』
「可能だよ、この、大英霊の雷撃を、もってすればな…!」
しぶとくもそう言ったあと、マキリは絶命した。しかしすでに、魔力が急速に集まっており、召喚のときのようにそれは膨大な圧力を形成している。
誰か、英霊が召喚されようとしているのだ。
「魔霧に魔力を帯びた電気を大量に流すことで一気に増幅させるってことか…いったい、誰を召喚する気だ…?」
「マスター、いったん離れよう」
アーサーはすぐこちらに駆けつけると、唯斗を連れて地下通路へと戻ろうとする。サーヴァントの勘だろう、モードレッドとマシュも立香を連れて離れようとしていた。
しかしその直後、眩い閃光とともに、周囲の霧が爆発的に収束と膨張を行い、爆風が吹き荒れた。
とてつもない突風が吹きすさび、体が宙に浮いて吹き飛ばされる。魔霧とともに大量の瓦礫が舞い上がり、衝撃波で空間の天井や壁が一気に崩落した。
「…ッ、う…っ、アーサー…?」
強い衝撃が全身に走り、息が詰まるような感覚になる。耳がキーンとなり、水中にいるかのような音の遠さになった。
それでも目を開けて、自身の体の状態を確認する。擦り傷などはあちこちにあるが無事で、マスクも機能している。背後には温もりがあり、どうやら抱き締められた状態で倒れているのだと分かる。
起き上がって振り返ると、唯斗はマスクの中で息を飲んだ。
「ッ!アーサー!?」
倒れたアーサーは頭から血を流しており、この空間の壁に叩きつけられる際に唯斗を庇ったようだった。恐らく、強く全身と頭を打ち付けているだろう。
いったんアーサーの体全体に回復魔術をかけて、様子を確かめる。反発からして、怪我は体の内側にも及んでおり、たとえアーサーでも回復には時間がかかることが分かる。
周囲を満たすと、大量の瓦礫に覆われており、合間に立香やマシュ、モードレッドも倒れていた。
『唯斗君?!大丈夫かい!?』
「っ、俺は大丈夫だ…召喚されたサーヴァントは?」
通信は生きていて、ロマニから焦ったように声がかけられる。応答すると、安心したようにロマニは話を続けた。
『召喚されたのはニコラ・テスラ、狂化状態で召喚されている。その雷撃によって、ロンドン地表の魔霧を急激に活性化させて、英国全土を覆うつもりだ』
「……最悪のパターンだな。今の位置は?」
『地下通路を地表に向けて進行中だ。まさか、追い掛ける気かい!?』
「アーサーを回復させてる暇はない。立香とマシュは多分大丈夫だろうから、動けるようになって追い付けるまで少しでも引き留めたい」
『無茶だ!アーサー王もなしで!』
過信はしていない。ただ、確率を上げるだけだ。あの爆発で立香も負傷しているし、すでに連戦で体力も魔力も消費している。
相手はこの魔力の霧で強化されており、ロンドン市街地で激しい戦闘も避けたい。
これらの条件では、少しでも地下で動きを止めておく必要があった。
「俺は自棄になってないし、自ら命を投げ打つつもりもない。ロマニ、俺は…ちゃんと、カルデアに帰りたい」
『ッ!!……分かった。最大限、フォローするよ』
だんだんと、自分の中の感情や思いが、鮮明になりつつあるのが自覚できた。
そしてそれを初めて口にすれば、不思議と、力が湧いてくるような気がした。